巣立ち

 雨の予報にゆっくり起きたら、意外に空は明るい。日射しもあって、この週末辺りがスズノコ取りの最後のチャンス、損をした気分でデッキでぼんやりしていると、雀の声がしきりにする。巣立ったばかりと覚しい子雀がたどたどしい飛び方で庭を右往左往している。人影があっても怖がらない、というよりも、怖がる余裕もなさそうだ。
 にこ毛が残って模様のはっきりしない少しふっくらしたのが3羽。親鳥がその周囲をきびきびと飛んで、ときどき食べ物を運ぶ。手入れの疎かなこの庭は、小虫の調達に適しているらしい。まだ口角に黄色の残ったくちばしを開けてねだるのに口移しで与えている。巣立ってしばらくはこうした微笑ましい姿が見られるのだろうが、別れも近い。それを知ってか知らずか、親鳥は一人立ちに近づいた雛との時間を惜しむように、甲斐甲斐しく食べ物を運び続けている。
 午後になって空がにわかに暗くなり予報通り雨がきた。ずっと声が響き続けていた子雀はうまく雨宿りできたろうかと心配したが、雨が上がった庭にはすぐに親子の姿が戻った。にぎやかな声は薄暗くなるまで聞こえていた。