白山

 半年ぶりに山に登った。その山が真夏の白山日帰りというのは、今の自分には少々無謀だったようで、登りは山頂を前に足が攣りまくり、下りは熱中症の一症状なのか何なのか、途中から眼鏡越しの視野がぼやけるという変な状態に陥って、ただでさえ急な観光新道の稜線からの下降に難儀するということになった。要するに、日頃からコンスタントにお山参りを続けることが、山のご褒美を受け取る唯一の方法であり、その逆の横着な登山はお灸を据えられるだけだということを、改めて思い知ったわけだが、それでも三日たって思い返す白山がもっぱら美しいイメージに彩られているのだから、これはもう懲りない輩という他ない。

 もちろん山頂の火口湖群の紺碧の水面といまだに残る雪の白とのコントラストもよかったが、何よりもきれいだったのは路傍の花々。今年の白山は聞いたところでは花の当たり年のようで、特に砂防新道の黒ボコ岩手前辺りと観光新道の稜線コースでは、どちらも故障が発生する前だったこともあり、夢の如き光景に浸ることができた。それに弥陀ヶ原では、タイミングがよかったのだろう、これまでに見たことがないほど木道の両側にハクサンフウロが咲き乱れていたし、原を占領するコバイケイソウの白い花の群れもみごとだった。また近いうちに、今度は頂上は考えずに花を中心にしたルート取りで白山から別山へ回ってみたい、などというプランが頭のなかにうごめき始めているのだから、人間の苦難と愉楽の記憶の残存作用の非対称なこと、まさに知るべしだろう。

▲砂防新道

▲観光新道
 ところで今回観光新道で一番めだっていた花がこれ。青いベル型の花を連ねた花穂を何本も立てた立派な株がよく目を引いた。道行くおばさんに名前を聞かれたのだが、答えられなかったので帰って調べてみると、ツリガネニンジンの高山種のハクサンシャジンのよう。この種類、たいへん変異が大きいらしく、ここに写っている二株も、葉の様子がまるで別種のように違っているのが面白い。