氷ノ山戸倉コース・坂ノ谷コース

 日曜は今年2度目の氷ノ山。いつもの戸倉コースを登り、坂ノ谷コースを下るという周回コースへ。
 前回通り戸倉トンネルからの旧道は盛大に凍結しているが、側溝からあふれた雪解け水が道の右側を舐めているので、バシャバシャその中を歩いていく。峠道に入ると戻り寒波のおかげで新雪がかぶり景色は浄化されている。幸い靴程度しか沈まないのでラッセルというほどのことはない。
 朝はまだ青空だったが、戸倉峠を越えていつもの谷を登り始める頃には、西空一帯がどす黒くなり、気圧の谷の雲が空を侵し始めている。県境尾根に乗ると風も出始める。風雲急を告げる雲行きだが、雨は夕方からという予報を頼りに歩を進める。
 旧三ノ丸の1182標高点を越えて500mほど進むと、ミズナラの大木が現われる。この辺りから伐採・植林が入る前のこの尾根の姿をかろうじて残す古木の森に入る。森といっても、尾根上に線状に残るに過ぎないが、次々に現われる大木を見ながら進んでいくのは楽しい。
 以前から目を留めていた一本のミズナラの大木の下で小休止。思いついて細引を出して幹回りをぐるり一周した所で印をつける。たぶんこの尾根一番の巨木の幹回りがどれだけあるのか、後で細引を計ってみることにする。
 さらに進むと尾根の主役はブナに代わる。右手の谷一帯も原生林に変わる。ここにも大木が多いが、さすがにミズナラを越えるほどのものはない。ヨーロッパではミズナラは森の王、ブナは森の女王というそうだが、たしかに優美なブナに対して、ミズナラの古木は男性的な雄偉さで目を引く。
 突然声が響いて前方から下ってくる人が。トンネル南口で準備をしていた時、車だけ置いていったベテラン山スキーヤー二人組で、挨拶をするとスキー場からの縦走らしい。上はガスってきて早くも荒れ模様という情報。天気の悪化は予報よりかなり早そうだ。
 少々焦りながらブナ林を越えて大雪原に入ると、西からの風が一気に強まり、雪面にはシュカブラが発達している。さらに高度を上げると地吹雪で視界が悪い。雪が飛ばされて雪面は堅いアイスバーンになっている。ほとんど青氷と呼びたいような氷の斜面で、やはり雪の後の暖かい日に融けたものだろう。斜度がないからシールだけで進めるが、傾斜が強ければスキーアイゼンが必要なところだ。
 体がふらつくほどの強風の中、正午ちょうどに三ノ丸ピークに達し、長居は無用とそのまま坂ノ谷方面へ下る。へっぴり腰スキーでアイスバーンにエッジを効かせられる自信はないのでシールをつけたままズルズル下る。地吹雪の中の雪面は遠近感が薄れ、頭がフラフラする。ブナ林に逃げ込んで一息。この辺りは地形カンがあまりないのでGPSで現在地を確認する。風に流されるようにずいぶん東に下ったようで、殿下コースに下る尾根上にいる。これではその後の林道歩きがえらく長くなってしまう。
 方向転換して浅い谷を二つ渡って尾根を乗り換える。坂ノ谷コースの標識が現われてひと安心。標識を追いながらブナを縫って滑り、真っ白な広場が現われたら夏道との分岐。安心したらにわかに空腹を感じ、大木の根方で風を避けて湯を沸かし、コーヒーを啜りながら昼飯代わりのカロリーメイトを齧る。坂ノ谷尾根も天気がよければゆっくり彷徨いたい素晴らしいブナの森だ。ここにテントを張って三ノ丸や山頂方面に遊ぶのも楽しかろう。
 早くも雨が落ち始めたのに急かされて出発。スキーコースは夏道と分かれてそのままなだらかな尾根を三角点1149近くまで下る。その手前で右の支尾根に入らなければならなかったようだが、標識を見過ごしてしまい強引に南に小さな谷を下って林道に着地。トレースのない林道を本来の下降点の峠を越えて夏コース分岐の三叉路まで下ると、突然林道はトレースで賑やかになる。残念ながらスノーシューの足跡ばかりでシュプールはない。
 雨は本降りになり、重くなった新雪は滑らないので、スノーシューのでこぼこのトレースに乗って下る。まるで膝の柔軟性のトレーニング。この林道は戸倉コース以上に長くて傾斜も緩い。滑らない新雪の時は戸倉の峠下りを選ぶ方がよさそうだ。苦労して林道を下りきり、国道を歩いて車に戻った時には、撥水性の落ちたジャケットを通して雨はシャツまで染みて、一刻も早く温泉に飛び込みたい気分だった。
■氷ノ山戸倉・坂ノ谷コース周回GPSトレース
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新雪で化粧直しした戸倉峠
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▼雪面のデコレーション
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▼ブナの大木の天蓋
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▼三ノ丸大雪原の風紋
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▼真っ黒な西空と氷化雪原
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▼東の空も閉ざされていく
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▼避難小屋が見えてきた
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▼ガスがかぶさる氷ノ山
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▼大木の蔭で一服
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