氷ノ山三ノ丸幕営


 土日はK氏を誘って雪山幕営。雪のシーズン前半の気に入りのフィールドになっている県境尾根からの三ノ丸にご足労頂く。スキーの名手なのに山スキーを忌避する氏に合わせて、今回は初めてスノーシューで。長めの寒波の後でラッセルが予想され、日帰りならスキーしかないが、テントを担ぐならスノーシューでじっくり臨むのもいい。
 戸倉峠まではスキーのトレースが先行していたが、峠からは我々だけになる。暖かい時期が続いた後にやってきた2月寒波で、積雪はリフレッシュされてスノーシューもよく沈む。ひたすら林道をたどるのに疲れて、いつもの谷の一つ手前の杉の大木の立つ谷から稜線に登り上げる。
 県境尾根に乗ってからも雪は深く荷も重く、我慢の歩みが続く。ラッセルを交代しながら高度を上げると、尾根の植生の主役が雑木からミズナラ、続いてブナに変化する。今日は枝が霧氷で化粧し、それがどんどん厚くなる。歩きだしは真っ青だった空もここまで北上すると不穏な鼠色になり、霧氷の森も光をひそめて沈んでいる。そのなかをしずしずと進んでいくのも、何やら神秘的な参道をたどる気分がする。

 もう十分疲れているのだが、霧氷の森に励まされて幕営予定の三ノ丸大雪原の裾まで到達。雪原から吹き下ろす冷たい風のなか、泊場を求めてブナ林をさまよいブナの根方の緩斜面にザックを下ろしたのが4時。気休め程度に風除けのバリケードを作って、テントを張り急いで逃げ込んだ。テントシューズを履き、ダウンを着て、シュラフにもぐり込むと安堵感が湧いてくる。すぐに暗くなって、焼酎を嘗めながらテント越しにK氏と喋ったり、iPodで映画を見たりしているうちに眠りに落ちていた。

 夜半に空気が入れ替わったようで気温が少し戻って、テントを揺さぶる風も止み、朝まで寒さを感じずに過ごした。ゆっくり起きて、カメラだけをもって三ノ丸まで登る。氷ノ山まで足を伸ばす手もあるが、まあそこまで精勤せんでもいいかという気分になっている。引き続き雲が多いが、青空が広がる時間も多く、大雪原はさまざまに表情を変える。雪原の笹藪は暖かい間に一部起きていたようで、アーチ状に雪に埋もれながら凍りついている。潅木が分厚い霧氷におおわれて、小モンスターになっていたりする。東屋から避難小屋、展望櫓と巡ってからテントに下る。今日の足跡はまだなく我々が一番乗りだった。

 テントに戻り、撤収にかかったK氏を残して前回も歩いた半島状の1337mピークまで歩いてみる。泊場から少し下るとめざましい杉の巨木が2本立っている。真下から見上げると霧氷におおわれた枝が堂々たるもの。台地状の1337標高点は杉の大木の立つ広場になっていて、東側の谷にかけてみごとなブナの原生林になっている。ここも雪の季節にしか立ち入れない桃源境だ。
 まだ11時前だがこの雪では下りも長かろうと下山にかかる。県境尾根からの下りにいつもの谷を選んだ以外は、登りのトレースを忠実に踏んで省エネをはかったが、特に長い林道の下りはさすがにスキーが恋しく、トンネル東口に戻ったときには十分足にきていた。
三ノ丸幕営アルバム