三周ヶ岳

 土日は久々に両日とも好天の予報が。好機逸すべからずと越美国境稜線にテントを張って、三周ヶ岳と美濃俣丸、県境の2雄峰を往復するプランを実行に移す。数年前、三周ヶ岳を日帰りした時、ブナの多いたおやかな国境稜線が幕営を誘うが如くであったのが心に残り、いつかはと考えていたのだ。
 前夜、南越前町に入って車中泊し、朝、雪のない岩谷林道をデブリに阻まれるまで半分ほど進んで、いざ出発となって大きな支障(後日詳述)が発覚。あたふたと弥縫に努めた結果、結局歩き始めは昼となる。
 1時間ほど歩いて、夜叉ヶ池登山口の手前で左の尾根に取りつく。以前三周への登りに使った尾根で、末端の藪を抜けると実に快適な雪尾根登りが続いたのだったが、暖冬の今年はどうか。一抹の不安は登るにつれてどんどん現実のものになり、今シーズンの寡雪を甘く見ていたことを思い知らされる。一向に雪が現われないのだ。ひたすら藪を漕ぐが、ザックに縛ったアイゼン・ピッケルスノーシューが役に立たないどころか、藪に引っかかって進行を妨げる。何たる苦行。こんな藪尾根でこんな恰好で何をしてるのかと、我ながら情けなくなる。

 結局雪が現われ始めたのは標高800m前後から。雪の上だけは藪がないので、できるだけ雪をつないで歩くが、グズグズの不安定な雪なのでスノーシューを履く。スノーシューで雪だけでなく藪も踏み倒してやけくそで進む。雪が尾根を完全に覆ったのは950を越えてから。
 それからも雪尾根漫歩というわけにはいかず、県境への詰めのアップダウンの多い細尾根は、今年の雪ではボッテリとなだらかに地形を和らげてというわけにはいかず、両側の急斜面を避けると雪の薄い灌木交じりの尾根筋を、枝くぐりや落とし穴にはまったりしながら進むしかない。県境稜線の1144mには結局取り付きから4時間近くかかって到着。いや〜キツかった。今年のコンディションではとても重荷を背負って登る尾根ではない。

 もう陽がずいぶん傾いた。泊場を決めなければならないが、記憶では三周方面に少し進んだところに山を真っ正面に見る素敵なステージがあったはず。疲れを押して一つピークを進んでみるが見つからず、根が尽きて若いブナに囲まれたピーク上で泊まることにする。穏やかな夜は風の心配もなかろう。
 ほとんど寒さを感じずに寝た翌朝は、ゆっくり準備をして軽い荷で三周ヶ岳に向けて出発。計画していた二山往復は、昨日の歩き始めが遅くなった時点で諦めている。美濃俣丸往復を選ぶ手もあるが、アップダウンの多そうな長い稜線を見るなり三周を選んでいた。
 いい尾根が三周に向って伸びているのは前回経験済み。左手の金ヶ丸谷源頭部にはブナの大木が多いし、右手には上谷山から三国岳、夜叉ヶ池山の眺めが爽快。三周稜線への最後の登りはかなりの急登だが、雪が締まっていてスノーシューの爪で登っていける。稜線に出ると東側が一気に切れ落ちている。今年は雪庇がほとんど消えて不安なく歩ける。何人もが歩いたらしい足跡がうっすら残っている。
 一旦鞍部に下ってから山頂に登り詰める。前回は雪庇が怖くて立てなかった最高点に立つ。朝食の残りのあんパンをぱくついて大休止。周囲は高い山はないが360度山また山。アルプスと違って山座同定する気にはならないが、遠くは真っ白な能郷白山ともう黒々した金糞岳が目を引く。金糞の左には伊吹山、右には琵琶湖が光る。
 下りはアイゼンを履いて、鞍部から右にブナの大木の小尾根を下り、谷を渡って往路に戻る。テントに帰った時には、北から広がってきた雲がほとんど青空を隠して寒々しい景色に。今日の好天の予報は外れだったようだ。こうなると帰心矢の如し。雪をとかして帰り用の水を作ってテントを撤収。重い荷をゆすり上げて難儀な下りにかかる。
 細尾根はアイゼンを利して右側斜面をトラバースしていくのが早い。雪のある限りアイゼンで下り、藪になれば遮二無二突進する。最後は藪斜面が広がり分かりにくいのでGPSで行きのトラックを追って林道に下りる。林道には夜叉ヶ池に登ったらしい足跡とタイヤの跡があった。もう4駆なら登山口近くまで入ることができそうだ。ただし、夏道はまだ使えず、冬ルートはどれも下部の藪が厳しかろう。
■岩谷林道から三周ヶ岳GPSトレース
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三周ヶ岳山行アルバム