鈴鹿 藤原岳・御池岳

 土日は思い切って日本アルプス山スキーというプランもあったのだが、娘が一日車を使いたいというので断念。まあ、それがなくても滑りに自信がないので、斜度がきつく雪の状態も大きく変化する高山スキーは荷が重い。来シーズンは氷ノ山だけでなく、越美の中級山岳辺りで揉まれてから、日本アルプスデビューといきたいもの。
 それではと、久しぶりに春の鈴鹿を歩いてみることにする。せっかくなので少しきつめのコースで山スキーの穴埋め。前夜、鈴鹿登山の定宿にしている黒丸PAで車中泊して、朝、御池川林道の登山口に入る。ノタノ坂を登って茶屋川に向かって下ると、何年ぶりかの廃村茨川。廃屋の側の川沿いにコナシだろうか、真っ白に花をつけた木がみごと。写真を撮っていると、同じく御池川から越えて来たらしい登山者が行き先を聞いてくる。同じく藤原岳の西尾根と分かって、何となく同道することに。丸顔に捩り鉢巻が似合う愛想のいい人で、楽しく話しながら川を遡って行く。
 筋金入りの鈴鹿フリークの一人らしく一週間前にも同じコースを登ったというので、引っ張ってもらって着いていく。その時に比べて水かさがずいぶん減っているということで、谷斜面のトラバース道はやめて川原歩きを選択。それでも滑りやすい石飛びの徒渉や苔むした岸のへつりが何度もあって、俄かパートナーは間もなく定年というおん年にも関わらず、身軽にバランスよく渡って行くのに驚かされる。こちらは久しぶりの登山靴歩きにヒヤヒヤもの。ついには足を滑らせて片足浸水。まあ、カメラごと水にひっくり返らなくてよかった。
 賑やかに遡行していくが、気がつけばずいぶん進んでいるのに一向に西尾根の取り付きが現われない。これはおかしいとGPSを見ると、いつの間にか取り付きを過ぎて蛇谷に入っているよう。首をひねりつつ戻ると少し上の方に示道標のある西尾根。しきりに恐縮されるが、イヤイヤ道迷いも鈴鹿のうちですからと慰める。ほんとうに鈴鹿は難しいし気が抜けない。雪山以上にGPSが活躍する山だと実感。
 西尾根の前半は急登。ここでも捩り鉢巻氏は強く、余裕で話しかけてくる。こちらは苦しい息でとぎれとぎれに答えるのが精一杯。中間部で傾斜がゆるみ尾根が広がると、落ち葉に埋もれた平にカタクリが広く散らばってまだら模様の葉を広げている。中には咲いている株もあるが、全体的にはこれから。前回稜線通しに歩いて見つけた群落を目当てに来たらしい氏は、あくまで藤原岳山頂へ直登するようだが、先のことを考えて、というか苦しまぎれに楽をしたい当方は、山頂をパスするトラバースルートを選択して、ここでいつの間にか分かれ分かれに。名前も聞かず、挨拶もしなかったが、また鈴鹿のどこかでお会いしたいもの。
 適当にトラバースを続けて、行き当たった善右衛門谷源頭を咲き残りの福寿草に励まされながら少し詰めると、山頂北の鞍部。そのまますぐ上の1128mまで登ってやっと一息。辺りにはカレンフェルトというのだろうか、石灰岩が露出しその間にニリンソウらしい白い小さな花が咲いている。この花はピークを下って草原の中を通じる登山道に復帰しても広く咲いている。そしてもう一つ、この先天狗岩まで路傍にめだつのは、大きめの深く裂開した葉をこんもりと繁らせた草で、花はまだない。庭のゲラニウムにも似て雰囲気のいい株なので、どんな花を咲かせるのかぜひ知りたい植物。
 好展望の岩鼻、天狗岩を過ぎ、バイケイソウと葉を伸ばした福寿草が青々と林床を埋め、そこに苔むしたカレンフェルトが突出するミニチュアの山水のような自然の造形が両側に展開する道を進んで、右に三重県側、左に鯨の背のような御池岳の眺めが広がる送電線鉄塔のある尾根を下れば白船峠はすぐ。ここから西に、歩き出しはカタクリの多い乾いた谷を下ると、やはり伏流して乾いた真ノ谷。水がもう乏しいのでぜひ補給しないとと、谷を少し遡ると人の声が聞こえ、幾張りものテントが現われてこの山域唯一のテント場。今日は大賑わいだ。テントの横の流れで水を汲み、遅い昼食をとって御池岳への直登に備える。
 テント場の裏から御池岳の北東斜面に取り付き、登高開始。斜面にほとんど藪はなく、足場のいい部分を選んで小さいジグザグを切って登っていけばさして苦しくはない。中腹辺りにドリーネだろうか、大きな窪地が口を開いているのに驚く。後半はカレンフェルトが増え、傾斜も次第にゆるんで気分よく登って行ける。テントが張れそうな小さなステージも見つかる。ここでも斜面をバイケイソウの瑞々しい緑が飾っている。予想通りちょうど1時間で1241mピーク着。大きな荷を担いだ若者がちょうど下っていくところ。後は無人のテーブルランドを笹の薄い部分を選んで横断して、T字尾根下降点に向かう。奥ノ平の笹藪もイブネと同じくずいぶん衰えているように見える。御池マニアの人たちにとっては笹をかき分けての池探しの楽しみも半減?
 GPSで下降点を見定めて、北東斜面に倍する急斜面を下って懐かしいT字尾根に降り立つ。後は日の長い時節、鈴鹿でも指折りの美しい尾根を楽しみながらゆっくり下る。大ブナが立ち並ぶブナ権現に続いては、尾根が痩せてシャクナゲがおおうリッジ。ここではイワウチワの可憐な花が足元を飾る。そして標高が下がると満開のシャクナゲも出現。まだ早いと思っていただけにT字尾根からのうれしいプレゼントだった。
 T字の交点を左翼に折れ、878m手前の意外な近場に広がるブナの美林に深々と心を洗ったら、最後の林道への下降。気がゆるんで目印のテープを見失ったせいか、それともヒノキの苗が大きくなってルートそのものが失われてしまったのか、踏み跡らしきものもない。仕方なく植林の枝をかき分けかき分け支尾根状の地形を一気に下降。林道に飛び出したら、確かに見覚えのある自然学校の看板のところだった。林道を歩いて、車帰着6時。出発が7時45分だから10時間の、歩き応えがあるが楽しみも多い鈴鹿カルストの2山周回だった。
■茨川から藤原岳・御池岳・T字尾根GPSログ
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▼コナシ?咲く廃村茨川
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▼朝の流れをさかのぼって
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▼落ち葉のベッドで咲くカタクリ
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ニリンソウが彩る藤原岳山上草原
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▼天狗岩付近のバイケイソウの群落
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▼御池岳北東斜面
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▼1241ピーク辺りから見たボタンプチと天狗の鼻
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▼T字尾根から望むボタン岩の懸崖
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▼久しぶりにブナ権現に挨拶
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▼イワカガミが光る道
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▼可憐なイワウチワの花
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▼早くも咲いているシャクナゲ
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▼T字尾根左翼のブナの美林
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