明神平雪中幕営

 週末は今年最初の山に。流感のせいで例年になく遅い初登りだが、K氏のリクエストで明神平にテントを張ることにする。勝手知ったる明神平とはいえ、折からの寒波襲来でちょっとした耐寒訓練モード。

 久しぶりに全部載せの重荷で、大汗をかいて明神平に登り着き、低温模様の予報に怖じて、明神岳北斜面のいつもの幕営ポイントまで上がるのはやめて、天理大小屋の少し下に設営。周囲にはブナの大木が多く、見上げると真っ白に霧氷をまとった枝のシルエットが美しい。雪は先週の温かさで一度融けたらしく、新雪の下に硬い凍てた層があり、この時期にしてはラッセルの苦労は少ない。ただし壺足では時々踏み抜いているようだが。
 時々吹雪く天候は夕方になって好転、青空が見え始める。雪を嫌ってずっとカメラップにくるんだままだった一眼レフを肩にかけて、前山の大斜面まで登ってみる。稜線に沈む日が暖色の光を霧氷の峰に投げかける珍しい光景。一眼レフは、ずっとポケットに入れて温めていなければならないコンデジと違い、ぶら下げっ放しでも問題なく作動する。電池残量のアラートは出るものの、マイナス数度程度なら何とか使えそうだ。
 日が沈むとともにテントにもぐり込み寒さに備える。ダウンジャケットを着込み、足にはカイロを貼ってテントシューズを履く。リッジレストを敷いて寝袋にもぐり込むと準備万端。そのまま上半身を起こして夕食のおでんを煮る。テント中湯気まみれになってハフハフ頬張りつつ焼酎をなめていると、身体の奥から温かくなってくる。隣のK氏もなにやら食っているようだが、ほどなくイビキが聞こえ始める。

 こちらはFMを聞きつつ長い夜を耐える。今回からテントのあかりに、これまでの蝋燭ランタンに代わってジェントス・エクスプローラーを採用した。アダプターをフックにしてテントの通気窓に引っかけておくと、暖色の光がテント中を照らして実に頼もしい。最初は十分本を読める明るさで、そのまま朝まで点け放しにしても、さすがに光量は落ちたがまだ光っている。
 夜半になって風が強まった。周囲のブナがうなり、時々枝の雪がテントにも落ちてくる。それでも冬用外張りのせいか、テント内の空気は静穏で、温度も安定しているよう。マットの下の雪の固いデコボコが気になる以外は、何の障りもなくぬくぬくと朝まで過ごした。
 翌日は風はあるものの青空ものぞく天気。ゆっくり起きて、軽い荷で桧塚奥峰往復に出発。三塚分岐から明神岳北斜面の広々とした森を、枝も幹も真っ白に化粧した幻想的な風景に嘆息しつつトラバース。登山コースにぶつかって左折し桧塚奥峰をめざす。ブナの純林主体の広々とした尾根はいつ歩いても心地いいが、明神平周辺ほど霧氷が発達していず、あまりカメラを向ける気にならないのは贅沢な話。
 けれど桧塚奥峰への登りにかかると、再び風景は純度を上げる。周囲から突出した峰は風の標的で、斜面のブナやシロヤシオは厳しく凍りついて、青空を背景に苛烈な姿を見せている。写真を撮りつつ登っていくと、下ってくる人が。行きと帰りと結局このコースで出会った唯一の登山者だった。
 風の冷たい山頂で桧塚や最近人気のヒキウス平、遠く池木屋〜迷岳の稜線を眺めてからとんぼ返り。ガス欠気味でヒキウス平に立ち寄るのはあきらめて、1394ピークでバケツを掘って、スタミナ抜群のK氏を待たせてエネルギー補給をしてから一気に明神岳まで登り返す。その先はしっかりしたトレースの残るルートをのんびりテントに戻った。
 訪れるたびに期待に違わない美しさを見せてくれる厳冬の明神平。今回も鮮烈な印象の残る二日間になった。
■明神平から桧塚奥峰GPSトレース
明神平雪中幕営アルバム