浅間山

 金峰山を終え、「増富の湯」のラジウム源泉にゆっくり浸かった後は、浅間山に移動。今回は登山口が遠くないので小諸の道の駅で泊まり、朝、山に向うことにする。「雷電くるみの里」に到着すると、すでに車中泊の車が多い。キャンピングカーもあるが、カーテンを引いたミニバンやワゴンもある。道の駅はいつの間にか日本流モーターキャンプの手軽なパークになっていたようだ。最近はどこに行っても充実した立ち寄り湯があるし、快適に寝られるならこんな旅行もありかも。
 朝、チェリーパークラインを上って車坂峠の登山口に入る。ここから黒斑山の下の遠見ノ頭へは尾根コースと谷コースがあり尾根コースを登る。今日はサブザックにしたので背中が軽い。浅間山は古いカルデラの東の縁に噴出した火山で、カルデラの東側は浅間山に埋まってしまっているが西側は残っている。遠見ノ頭から黒斑山、蛇骨岳と続く登山道はそのカルデラの縁を通るもの。カルデラ原を眼下に浅間火山の眺めが楽しみだ。
 遠見ノ頭に登り着くと想像していた以上に浅間山本峰が大きい。どこにもギザギサしたところのないコニーデ型の生々しい活火山の姿で目の前に聳えている。雲に覆われていた頂上も姿を現わし、立ちのぼる噴煙が火口の位置を教えている。外輪山の最高点黒斑山は木が多いが、蛇骨岳に向うと遮るもののない岩礫の稜線になる。どんどんガスが切れて、浅間山が視野一杯に広がる。ずっと浅間山を眺めながら歩く何とも豪快なコースだ。切れ落ちた外輪山の真下には秋色の高原が広い。火口が近いのにそこは想像していたような荒涼とした原野ではなく、黄葉したカラマツ林あり、光る湿原あり、赤く色づいた草紅葉も点々とあって、けっして貧しくはない植生の土地のようだ。これから下って歩くのが楽しみ。
 右側ばかり見て歩いていたが、気がつけば稜線の左側にも大きな眺望が広がっている。真下には嬬恋の広大なキャベツ畑がモザイクのよう。その向うには菅平と四阿山。さらに遠望すると、おお、雪をまとった北アルプス後立山連峰が長く連なる。仙人岳で休んでいた先行の人と山座同定にしばし花が咲く。白いのは白馬三山と唐松・五竜の頂上部ぐらいで、後立山連峰鹿島槍以南はまだ黒々しているが、その背後に浮かぶ立山と剣は真っ白だ。いよいよ日本アルプスも気軽には近づけない季節になった。
 外輪山の道は鋸岳手前の鞍部で内側に下ってしまうので、見晴らしのいい岩でフルーツ缶を開けてゆっくり浅間を眺める。目の前の山腹を巻いて登山道が斜上している。活動がおとなしい時は、山頂の小カルデラ縁の前掛山まで登れるようだが、今は残念ながら上は立入禁止。と、前掛山の稜線に人影を発見。禁を侵して火口に近づく人もいるようだ。
 Jバンドと呼ばれるカルデラ壁につけられた下降路を通ってカルデラ内へ下る。下りついたところは浅間火山本体の裾。外輪山側は狐色の草付きで灌木や石楠花も生えているが、火山側はわずかにひこばえのカラマツとコケモモ・ガンコウラン・クロマメノキといった地を這う高山植物が生えるだけ。それも低いところだけで、上は黒一色の火山斜面になる。Jバンドからカルデラ原で一番目立つのは紅葉したクロマメノキの群落。さすがにアサマブドウと呼ばれるだけあって、外輪山からずっとこの高山性ベリーが多い。外輪山の外側斜面など遠目に赤く染まっているほど。しかもどの株もよく実をつけていて、歩きつつ摘んでいるとキリがない。本気で採ればすぐにバケツ一杯くらいは集められそうだ。
 カルデラ底から見上げる火山斜面はいよいよ大きいが、よく見ると大きな噴石がまんべんなく散らばっている。噴火の時にはあんなものが降ってくるのだ。道の脇にもちょっとした小屋ほどのものが落ちている。噴石が落下した跡の穴らしきものもある。くわばらくわばら。
 南に向かう道は、次第に植生が豊かになりカラマツ林に入る。ここまでは噴出物が届きにくいということだろうが、それでも林のなかにも大きな噴石が点々とある。立入禁止のロープが張られた前掛山への分岐を過ぎれば、いよいよ気持ちのいい風景が展開する。カラマツ林は大木になり、その周囲にはやわらかなカヤトが広がる。その向こうに外輪山が聳える風景が実に伸びやかでいい。荒ぶる活火山浅間にこんなきれいな場所があろうとは思わなかった。そういえば上からは湿原も見えていたから、テントを張ってカルデラ原をゆっくり歩き回れば面白そうだが、もちろんそれは非公式の行動ということになる。
 そのまま道を進めば、火山館を経て、外輪山を破って遠見ノ頭と牙山の間を流れ下る沢沿いに浅間山荘登山口に至るが、車坂峠に戻るためには右へ折れて、草すべりコースでカルデラ壁を登り返さなければならない。1時間の急登は苦しいが、見上げる遠見ノ頭の岩峰、返り見る浅間と高原の大パノラマに励まされつつ登る。最後は攀じ登るような急登をこなしてハイカーの多い稜線の道に合流。家族連れや引率登山の声が響く谷コースを右に見下ろしながら、人の少ない尾根コースを下って登山口に戻り、期待をはるかに越えて多彩な地形と植生に魅了された浅間登山を終えた。
▼車坂峠から浅間山GPSトレース
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浅間山山行アルバム