八ヶ岳

 木曜・金曜はK氏とテントをかついで八ヶ岳へ。たぶんこの夏唯一の幕営山行。
 でこぼこの林道を桜平まで車で入ると、後はわずか1時間歩いただけで山懐のオーレン小屋に至るというお得なルートを選択。この小屋には個室や風呂まであり、トイレは清潔、道中もよく整い、無理せず深山を感じたいハイカーにもお勧めの小屋だ。
 幕営料は千円と相場の倍だが、テント場には木の床が幾つか設えられ、快適にテントを張ることができる。わずか1時間とはいえ、久しぶりの重荷に疲れて、夕方までひと眠りしてから、茅野で買ってきた地ワインを飲みつつ夕食。腹がくちくなって、テントにもぐり込み、フラットな床で気持ちよく寝る。
 翌日はテントを張ったまま、軽いザックで八ヶ岳を周回。小屋の冷たい清水をたっぷり汲んでから、美しいシラビソの樹林のなかを箕冠山に向けて登り、根石山荘を左に見て根石岳を越えると最初の目的地、天狗岳はすぐ。辺りをおおっていたガスも次第に薄れてきて、東天狗岳に登り着くと、すぱらしい展望が広がった。特に北アルプスの山並みが雲海の上に長く連なっているのが見もの。山頂は風が強く長居できないので、双耳の西天狗岳に向かうと早くも雲が湧き上ってきて視界を隠し始める。頂上に着くころには再び真っ白。
 予定では続いて稜線を取って返し、硫黄岳までミニ縦走するつもりだったが、この風とガスでは面白くなかろうと、温泉好きのK氏の希望に従い、高所温泉として有名な本沢温泉にいったん下り、湯を楽しんでから登り返すことにする。1時間ほどかかって下り着いた小屋で入浴料600円を払ってから少し夏沢峠に向けて登ると、硫黄臭漂う荒れた谷斜面に木枠の湯船がある。そこは硫黄岳の爆裂火口を正面に仰ぐ絶景の地だが、脱衣場も何もないほとんど野湯。狭い木の床で裸になって、先客の男性に挨拶して硫黄臭紛々たる湯船に身を沈める。
 先客は秘湯巡りを趣味とする人らしく、2時間林道を歩いてやってきたのだという。3人でしばし温泉談義。ここの湯は相当酸性度の高い湯だそうで、なるほど傷が少しピリピリする。小さなパイプから流れ出る湯は43度ほどだそうだが、湯船全体はかなりぬるめ。勢い長湯することになるが、濃厚な硫黄が体中に染み込んでくるようで、温泉好きの人はともかく、あまり気持ちよくはない。それにきつい登り返しが待っているので、そうそうとろけてもいられない。
 それでも30分余りいてから出発。長湯でフワフワする体を再び登山モードに切り換えて夏沢峠に登り返す。汗をかいた体からは硫黄の臭いが立ちのぼる。峠からは岩勝ちな道を硫黄岳へ。左には爆裂火口が口を開けている。遠くからは浅い馬蹄形で山を半分に断ち割っているように見える爆裂壁は、近づくと深い馬蹄形で山に食い入っていることが分かってきて、一層火口という雰囲気が強くなる。太古のある時、なだらかな山頂部をもっていた硫黄岳の地下で冷えかけたマグマが水蒸気爆発を起こし、山頂の一角を深くえぐり取ってしまったのだろう。
 あえぎつつようやく山頂にまで達すると、平原状の広々とした地形。それがいきなり何百mも垂直に切れ落ちた火口壁で断ち切られる。思わず疲れを忘れて切岸をのぞきこんでしまう。人智を超えたすさまじい火山活動の痕跡に感嘆するほかない。
 地形検分を堪能したら、湯を沸かして大休止。 大ダルミの吊り尾根をはさんで、西面が荒々しい岩壁になった横岳とその向こうにピラミダルな主峰赤岳が連なる。赤岳はほとんどガスに隠れ、横岳もガスをまとった陰鬱な表情でますますアルペン的。それを眺めつつ麺をすすり、梨をかじる。横岳方面からも登山者が続々やってきて、さらに2山縦走も面白そうだが、それはまたいつか。
 夏沢峠まで戻ったら、オーレン小屋は近い。週末を前にテントが増えたテント場に戻り、いそぎ撤収して下山の途に。尖石遺跡公園の縄文の湯で汗を流し、ボリュームたっぷりのほうとうの夕食で久々のテント山行を締めた。
■オーレン小屋から天狗岳・硫黄岳GPSログ
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▼枯れたダケカンバの大木が目印のオーレン小屋テント場
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▼冷たい水が湧くオーレン強清水
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▼東西の天狗岳山頂
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▼天末に連なる北アルプス
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根石岳の向こうに硫黄岳爆裂火口と赤岳・阿弥陀岳
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▼本沢温泉付近から見上げる硫黄岳爆裂火口
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▼夏沢峠からの硫黄岳
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▼峰の松目とオーレン小屋
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▼すさまじく切れ落ちた硫黄岳爆裂火口壁
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▼北にガスのかかる横岳の大岩壁を望む
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