八ヶ岳・権現岳

 好天予報の土日は、K氏と今年最初の夏山幕営に出かける。もう9月だが、このところ蒸し暑さが戻って、遅れた梅雨明けで短かった夏山シーズンの帳尻を合わせてくれているよう。高速の休日割引とともに、この機会をありがたく利用させてもらう。
 去年の天狗岳・硫黄岳に続いて、今年は八ヶ岳最南の雄峰、権現岳をめざす。小淵沢インターそばのスーパーで食料を調達し、観光客で賑わう道の駅で昼食をとってから、登山口観音平に入り、重荷で出発。今日は新調した大型ザックの初日で、その按配も楽しみ。
 道は樹林の尾根を編笠山の裾まで至り、押出川で直登路を分けて編笠山の東麓を回り込んで、権現岳との鞍部に位置する青年小屋に登り上げる。全般に露出した火山岩を踏むことが多く、不規則な段差が体力を奪う意外に厳しい道だ。元気なうちはいいが、体がつらくなってくるとザックの性能が身に沁みて分かってくる(詳細は後日)。
 4時間近くかかってたどりついた青年小屋は、錆びたトタン葺きのレトロな小屋。テントの受け付けに入ると、外観に似ずピアノの音が聞こえている。泊まり客には小屋主家族が生演奏を聞かせてくれるらしい。広々したテント場は8割方埋まっていて、仕方なく端っこの草地に、もう花の終わったリンドウやオトギリソウに遠慮しつつテントを張る。石の心配のない草地はうねりがあるもののいい寝心地だ。
 水場に冷たい水を汲みに行ってから、さっそく夕食とする。草地にどっかとあぐらをかいて、冷やした地ワインを飲み、雑々たるものを食う。山では酒が少しあれば何でも美味い。酒は軽くてちょっと甘めのジューシーなのがいい。それには白の地ワインがぴったり。瓶が重いのが玉にきず。
 腹が膨れ酒が回って、そのままテントに転がり込んで一眠り。K氏の呼ぶ声に目を覚ますと、とっぷり暮れた夜空には月光を隠した雲が美しく輝いている。夜光雲ならぬ月光雲だ。あわてて今回初めて持ってきた三脚を立てて灯のともるテントを前景に撮影。なるほど、三脚があれば山の夜も面白い被写体になりそうだ。
 翌朝も三脚を利して朝焼けをきれいに撮ってやろうと、いつになく早く起きる。もう動き始めた小屋の横を編笠山に登るが、残念ながら上半分はガスの中。真っ白な山頂だけ撮って下っていくと、権現岳方面のガスが取れて、朝日のなかに青年小屋とテント場が見下ろせる。気持ちのいい風景を茶でも飲みながらゆっくり眺めていたくなるが、そうもいかない。テントに戻って、待ち受けていたK氏とともに権現岳に向けて軽い荷で出発。
 1時間半ほどの行程だが、2カ所の鎖場をはじめ、なかなか高度感のあるコースだ。キボシと呼ばれる前衛峰がピラミダルに尖り、その東面が大岩壁になっている。鎖場はそれほど危うくはないが、人が多ければ落石に気を使いそうだ。ギボシの肩まで登ると、後はなだらかな稜線を歩いて大岩が突出した山頂に至る。稜線の脇にはしがみつくように権現小屋があって驚かされる。小屋の少し先のピークが縦走路の分岐になっていて、縦走路の先にはガスをまとった最高峰赤岳が遙かに屹立している。
 大岩をよじ登った権現岳頂上は、中ア宝剣岳の頂上を思い出させる岩塔のピーク。古そうな大きな剣が突っ立っているから、この山頂は磐座として崇められてきたのだろう。山頂に登ると同時に南の谷から上ってきたガスがかかり、眺望はわずかになってしまった。ガスの湧き具合もまるで盛夏のようだ。山頂を下り、小屋の上のジャンクションピークに戻ってゆっくりエネルギー補給してから下山にかかった。
観音平から青年小屋・権現岳GPSトレース
→権現岳山行アルバム