竹外二十八字詩

 ○薔薇
 錦被 堆をなす 燦爛の光
 頭をめぐらして空しく憶う水西荘
 晨に花裏より師を尋ね去り
 紅露 衣を灑して三日香んばし
 バラの垣根ということで思い出した詩。頼山陽の水西荘には薔薇が多く植えられ、藤井竹外にとって薔薇は、師の思い出と分かち難くつながっていた。
「薔薇が華やかに咲き乱れているのを見ると、過ぎ去った水西荘の日々を思い出す。朝、花の垣根をくぐって先生を訪ねて行ったっけ。その時着物に染みた薔薇の露はしばらく香っていたものだった。」
「紅露、香んばし」という表現からすると、水西荘のバラは白のナニワバラや無香のモッコウバラではなく、ローズレッドで香り高いイザヨイバラやコウシンバラの類だったかもしれない。『山陽詩鈔』には「居を移して園を築く雑詠」という連作があって、水西荘の庭を飾った花たちが歌われている。大時代的な詠史の大家頼山陽は、また細やかな園芸家の顔も持っていた。