明神平

 土曜はK氏との初登り。折しも強力な寒波の終盤で、雪と特に霧氷に期待しつつ大又からの道を詰める。途中の明神滝は今年の寒さで例年になく広範囲に氷結している。登山道の周りの雑木は枝先まで繊細に白くなっていて、登るにつれてそれが厚くなる。今日の霧氷は期待できそうだ。条件によっては、枝が黒々している外れの日もなくはない。明神平への最後の詰めは谷を吹き上げる風が集まって越える場所で、風に含まれた吉野川の川霧が辺りの雑木に結晶して、時にはモンスターと呼びたいほど成長する。今日はそこまで行ってないが、それでも枝々には重々しい氷の衣ができている。
 登り着いた明神平は冷たい風に乗ってガスが流れる単色の世界。風を避けて小屋の蔭で休んでいる人もいるが、もう少し足を伸ばせばゆっくり憩えるポイントがいくらでもある。我々はここでスノーシューを履いて前山下まで登り、風裏に腰を下ろして霧氷の木々に囲まれた大斜面を見下ろしつつ昼食とする。低温のせいで弱々しいストーブの火に焦れながら食料を温めてカロリー補給。腹はポカポカしてくるが長く止まっていると足先や手先が冷えてくるので、せっかくの好シチュエーションなのにゆっくりとはいかない。
 食後は霧氷の森をひと巡り。明神岳への稜線を少し進んでからブナの尾根を下り、源流の谷を横断して明神平へ戻る。ブナの古木や枯れ木の多いこの森は大きなサルノコシカケを産し、それは薬草好きのK氏の所望するところ。谷を登り返した辺りで枯れ木についた大きなのを見つけて、この頑丈な茸と格闘となった。こちらは周囲をさまよって霧氷の世界を堪能。厳しい寒さに支配された氷の森が、こんなにも美しく、心を純粋な何かで満たしてくるのはなぜだろう、などと考えている間もK氏の格闘は続いていたようで、戻った現場には木屑にまみれた氏の姿があった。
 重い収穫を背負ったK氏とともに明神平へ下り、登山道を尻滑りでショートカットしつつ下山した。林道を急ぐ頃には天候が回復して空は茜に染まり、明神平は昨年のテント泊の時のように美しい夕暮れを迎えていそう。明日の朝は霧氷の森が朝日に輝き渡るだろう。都合で今年はテントが張れなかったのが残念だった。







by S.K.