ボストリッジ・内田光子「美しき水車小屋の娘」


 これも最近の私的発見盤。そもそもこの名歌曲集自体、最近になってようやく視野に入ったのだから(何たる散漫なクラシックファン)、二重の発見といえなくもない。今や「水車小屋」は、シューマンの歌の年の歌曲群と並ぶ、わが座右の、というよりも寝床でiPodで聴くことが多いので枕頭の歌曲集という次第。
 ヴンダーリヒ、プレガルディエン、ゲルネと聴いてきて、このボストリッジ・内田盤はそれらとは明らかに一線を画す特別な演奏。これを聴いてしまうと、他の歌手の表現が浅いものに感じられてしまうから困ったものだ。ボストリッジはそれほどに繊細・細心に歌詞を追う。ヴンダーリヒの歌い上げるスタイルとは遠く隔たり、深々とした声の魅力で押すゲルネとも違う、しなやかな文学的歌唱とでもいえばいいだろうか。あるいは演劇的歌唱。それを内田光子の、同じく隅々まで神経の行き届いたピアノが支える。この行き方ではこれ以上ない黄金の組み合わせだろう。神経質過ぎると嫌う人も少なくないようだが、自分は大変気に入っている。