盛夏

 梅雨明け十日とはいうものの、夏はまだ全開にはなっていない様子。天気図を見ると太平洋高気圧がようやく張り出してはいても、気圧のピークは小さく分散して、その谷間に雲がたくさんわだかまっているようだ。いやになるぐらいかんかん照りが続く、スカッと抜けきった強力な夏空はこの週末以降に期待か。代わりに、150年ばかり前のこの辺りの夏景を、山田翠雨の『丹生樵歌』に探してみる。

  夏日溪上即目
 滿目の紅雲 暮色燒け
 夕來の炎気 なお熇熇たり
 溪流全く涸れて人掲げるに堪え
 輭却さる 崖頭の獨木橋

 衣をからげて渡れるほど水の減った流れ、そして誰もあえて渡らなくなった危うい一本橋は、翠雨軒に近い志染川の情景だろう。今は生活排水で汚れてしまったあの小さな川にも、こんな南画めいた盛夏の夕暮れがあったのだ。