栗の花

 裏山に何本か栗の木があって、毎年この時期、家中が栗の花の匂いで包まれる。この匂い、ご承知のように心穏やかではいられない匂いなのだが、そこは黙って「ああ、今年も咲いたな」という顔をしているのが大人の男というものであろう(ちょっと高校生ぐらいの奴を連れてきて、この匂いの中に立たせ、どんな顔をするか観察してみたい気もするが)。
 栗の花の句で、特にその匂いの心穏やかならざる所を上手く詠み込んだ句はないかとネットを探してみたが、そこまで踏み込んだ句は見つからない。江戸の川柳あたりにはありそうな気がするが、下品・下世話にならずに詠むには一休宗純の如き風狂の詩心が必要かもしれない。
 花栗のちからかぎりに夜もにほふ 飯田龍太