司馬遼太郎記念館

 近くまで行ったので、司馬遼太郎の邸宅にできた記念館をたずねてみた。場所は近鉄八戸ノ里駅に近い市街地のただなかで、何となくイメージしていた生駒山麓の屋敷町などではなく、河内平野の低地のごく庶民的な環境だったのは意外だった。ただ敷地はかなり広く、ボランティアの人が立ち番している門を入ると、太いクヌギが何本も植わった雑木林のような庭が広がる。その奥に家屋があって、庭に面した書斎をガラス窓越しにのぞくことができた。
 記念館はそのさらに奥で、司馬邸に隣接していた浄水場の跡を利用したものらしい。建築は例によって安藤忠雄だが、時に冗長を感じる巨大な公共施設と違い、コンパクトな4分の1円形の建物に驚くほど奥行きのある空間がみごとに収められていた。ただ、内容は眺めるだけの蔵書の巨大本棚と小さな展示コーナーとミニシアターだけで、受け取れる情報は少ない。
 司馬遼太郎井上靖とともによく読んだのは、中学から高校の頃で、その後は重くて暗い第一次戦後派の小説に凝って、両国民作家からは遠ざかってしまったけれど、風間完装幀の古本を見ると今も懐かしい。ミニシアターで流れていた映像には、当時の土地バブルを嘆き、文化の崩壊を予言する死の9日前の音声が切り取られていて印象的だった。その予言は正しかったと言えるのかもしれない。数々の歴史小説を経て、文明の大局観を身につけた人だったのだろう。

雑木林のような庭と書斎

記念館エントランス、昼寝中のお方が