高峰秀子

 今週はBS2で深夜に成瀬巳喜男の映画をやっている。昨夜は「妻の心」、今夜は「あらくれ」、どちらも代表作といえるほどの出来ではなさそうだが、それでもついつい見てしまうのは主演が高峰秀子だから。原節子が咲き誇る薔薇だとしたら、高峰秀子朝顔だろうか。居るだけで画面が華やかで上品になる原節子に対し、高峰秀子は一見あっさり淡白な印象。しかし見れば見るほど凄味のある演技力と独特の個性に魅せられる。目が少し開いたその丸顔が美しく見えて仕方がなくなるし、ちょっと蓮っ葉な声と口調もたまらなく魅力的に感じられてくる。この稀代の名女優をもっとも魅力的に撮ったのが成瀬巳喜男だった。だから、小津・原作品と並んで成瀬・高峰作品も日本映画の至宝だ。
 高峰秀子にはいくつかの著書がある。とくに自伝の『わたしの渡世日記』を読むと、この名女優の背後にある特別な人生経験を知り、それを語る筆に並々ならぬ知性を感じることができる。また、この人と黒澤明が一時恋仲だったというファンにとっては数十年を隔ててなお胸騒ぐ証言に驚かされたりもする。もちろん戦後の日本映画絶頂期の記録としても貴重な一書だ。