激しい雷雨が通り過ぎて、夕闇までのつかのまの晴れ間に現われた雲のドーム。傘を着た積乱雲。
 詩人尾崎喜八は、敗戦後、隠れ住んだ八ヶ岳山麓で、一日3回の気象観測と雲の観察を習慣としたという。戦争協力の烙印を負った詩人の心を、悠々と窮まりない雲の姿が日々慰めたに違いない。
 こうした雲を眺める夕方の時間をもつ時、それだけで人は生きている価値がある、と言いたくなるような充足感が心を占めることがある。