ライバル美術史
東京国立博物館で今日から「対決−巨匠たちの日本美術」 と銘打った特別展が開催されている。タイトルに引かれてサイトをのぞいてみると、同時代の作家12組をマッチングした美術展らしい。日本美術史の至高と究極の対決みたいなもの。組み合わせは、
運慶 vs 快慶
雪舟 vs 雪村
永徳 vs 等伯
長次郎 vs 光悦
宗達 vs 光琳
仁清 vs 乾山
円空 vs 木喰
大雅 vs 蕪村
若冲 vs 蕭白
応挙 vs 芦雪
歌麿 vs 写楽
鉄斎 vs 大観
選択の基準としては、「同時代に競い合った文字通りの『対決』だけでなく、弟子と師匠の関係、一方が一方に私淑する関係など様々ですが、広い意味でライバル意識があったととらえ、『対決』としています。」ということだ。まあ、遊び心を交えたライバル美術史の試み。面白いので外野からチャチャを入れてみた。
まず運慶 vs 快慶、雪舟 vs 雪村、永徳 vs 等伯。この辺りは文句無しのがっぷり四つ。宗達 vs 光琳はライバルというよりも精神的な師弟関係、仁清 vs 乾山も同じような関係だろうが、乾山には仁清を越えようという意識があって、みごとにそれをやってのけた。仁清の開いた可能性を乾山は天才の自在さで開花させた。乾山は陶芸の域を超えている。そういう意味ではもう一人の天才、兄の光琳こそがライバルか。
大雅 vs 蕪村も文句のないところ。「十便十宜図」という共作いや競作もあるから、当時から並び立つ南画の大家だった。けど、蕪村は元来下手糞な画家で、十宜図は十便図に及ばない。ただし晩年の謝寅がきになってついに独自の天地を開く。この辺りの二家の比較は夷齋石川淳の「南畫大體」にみごとに語られている。近世日本南画からもう一組対比させるとしたら、浦上玉堂 vs 田能村竹田なんてのはどうだろう。かなり無理矢理だけど。
若冲 vs 蕭白、応挙 vs 芦雪、この時代の京都画壇の画家たちは正統・異端入り乱れて美術史的には面白そうだが、絵は自分の好みではないのでよく分らない。画家の格という点では応挙 vs 若沖でもよかったような。
そして浮世絵からは歌麿 vs 写楽。大首絵という点では並べて比較しやすいだろうけど、絵のめざすところがぜんぜん違うのでライバルとしてはどうかな。歌麿がライバル意識を燃やした先人はやはり清長だろう。ほかに北斎 vs 広重がないのは不思議。北斎のダイナミックな風景画に対するに、広重が穏やかな画境で対抗意識を燃やしたのはよく知られるところ。
近代からは唯一、鉄斎 vs 大観。わが鐵齋翁が取り上げられたのは嬉しいけれど、大観なんざとてもライバルたり得ないでしょう。って、一般には逆の意識をもつ人が多いんだろうなあ。鐵齋のライバルがいるとしたら、まったく知識はないのだが、石濤などの流れを受け継ぐ清末の南画家だろうか。
ほかに近代から、浮世絵末流としてそれぞれ違う分野で頑張った二人、小林清親 vs 月岡芳年なんてのはどう? また新しいところでは梅原龍三郎 vs 安井曽太郎。これは生臭すぎるか。