梅雨の家

 はっきりしない梅雨の中休みが終わって、またジトジトと降り続く日が戻ってきた。
 たちまちフローリングが足の裏にべたついて気分が悪い。
 ところが畳床なら少々の湿気でもサラッとしている。
 土壁が湿気を吸っているのか、部屋の空気の重さも違う。
 犬もよく知っていて、このところのお気に入りの場所は和室の茶卓の下だ。
 風土のなかで作り上げられてきた生活空間の心地よさは、日本の場合特に夏に顕著なのだ。
 有名な徒然草の住居観*に励まされるように、日本の住まいは高温多湿の夏という難問に挑み続けて一つの理想を実現した。
 最近はやりのかっこいい住宅建築、絵になる部屋も、皮膚感覚で夏の過ごしやすさを検証したらどういうことになるか。
 いや、そもそもガラス・壁紙・フローリングのモダン空間は機械的空気調整が大前提か。
 仕方がないので当方もフローリングのベタベタには除湿機で対抗する。
 材質・構造の工夫の代わりにエネルギーを使って環境をねじ伏せる。
 これは明らかに退歩だろう。
 *「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬は、いかなる所にも住まる。暑き比わろき住居は、堪へ難き事なり。(徒然草55段)」