氷ノ山

 日曜は今年3度目の氷ノ山。前回訪れた1月下旬には藪はまだ埋まり切っていなかったが、その後長い寒波が続いて、きっと豪雪だった一昨年並の風景が見られるだろうと、ワクワクしながら国道29号を北上する。戸倉トンネルまで来ると、さすがに道の両側にはバカ高い雪の壁。すでに2台の車があるいつもの駐車スペースに停めて、8時半、旧道の入口に向かうと、2mを超える雪の壁がそそりたっている。スキーで壁を崩して、何とか階段を作ってよじ登る。上に出ると、あらら、2台の車の主と覚しいトレースがちゃんとあるではないか。どうやらトンネル間際から上がったよう。
 雪たっぷりの旧道を先行者二人のトレースを踏みつつ進んで戸倉峠。ここからは先行者のトレースは、一人は南の落折山にでも向かったのだろうか、一人分になる。それを追って、前回下りに使った広闊な谷をめざす。気づくと前に山スキーヤーの姿が。あらら、追いついちゃった。今日の雪はそれほど沈まないが、やはり人のトレースを踏んでいく方が楽なのだ。立ち止まって写真を撮ったりしているところに追いついて、少し立ち話。今日は三ノ丸を往復という。
 めざす谷は期待通りしっかり雪に埋もれている。藪はかけらもなく、まばらな杉の幼樹を縫って気持ちよく登って行ける。見上げる空は抜けるようだが、これでは陽差しで雪が重くなりそう。谷を登り切り簡単に県境尾根に乗る。前回の難渋が嘘のよう。尾根上も藪は皆無だが、しばらくは若木の林が続いて思うままにトレースを引くというわけにはいかない。それでも次第に尾根上には大木がめだち始めて雰囲気がよくなっていく。それと反比例するように、やはり日射で雪が重くなり、足どりも鈍っていく。その上、これからブナの大木が連なるこの尾根の核心部というところで、デジカメにトラブル発生。モニターが真っ白になって、写した画像も同じ状態。今年5年目のIXY DIGITAL 400もさすがに寿命か。
 ミズナラやブナの古木の間を登り続けて、一昨年印象的だったブナの大木の群生に再会すると、ようやく三ノ丸の大雪原が近づいてくる。気づくと、挨拶を交わした山スキーヤー氏が離れたところを並行して歩いている。人のトレースを踏まない矜持? こちらも頑張らなくちゃと、そのまま大雪原に進入するが、もうシャリバテでトレースが伸びない。さえぎるもののない雪原は吹き抜ける風が強く、ウィンドパックというのだろうか、雪面は一転して固く締まり、風紋ができている。せめて一枚とデジカメを取り出して、試しに電池を一度抜いてから起動してみると、かろうじて2枚だけ撮影できた。後はまた真っ白。
 まもなく三ノ丸の避難小屋と四阿が見え、スキー場からの足跡のある稜線に出て、北側に氷ノ山山頂や遠く扇ノ山のすばらしい展望が開けたところで、耐えきれず行動停止。腹が減ったし喉も渇いた。完全に電池切れ。けど風がとんでもなく冷たく、このままでは凍えそう。ゆっくり食事を摂るにはと、非常用の簡易テント、ツェルトを引っ張りだしてストックを支柱にして張り、もぐり込む。薄い化繊の底割れ三角テントだが、中と外では天国と地獄。水分を補給し、ゆっくりラーメンを煮てようやく人心地。ときどき顔を出して眺望を楽しむ。カメラの故障が残念無念。
 1時間ほどツェルトのなかでゆっくりしてから撤収。もう2時で三ノ丸の避難小屋の周囲にも人の姿はない。シールを剥いで山スキー靴のバックルを締め、ゆるやかな大雪原を滑って行く。ブナの森に入ると下りのシュプールが現われるが、意外にも一人だけでなく、数人分ある。強風地帯を外れるとまた雪が緩み、なんとかスキーを開いて操舵しながらシュプールを追っていく。旧三ノ丸の辺りまで来ると傾斜がなくなり、歩く時間も多くなる。その先は登ってきた谷に滑り込むが、ここは転倒しないように滑るので精一杯。何とか自爆一回で切り抜ける。他にだれもこの絶好の谷を下っていないのが不思議。
 林道に出て、後はトレースを踏んでほとんどクロカン歩きで進む。戸倉峠が近づいたところで、左手の尾根から声がして3人の中年スキーヤーが下りてくる。稜線を通しで来たようで、たずねると藪はそれほど苦にならなかったという。そう答える頬には枝で擦った痕がくっきりだったけれど(^^;。トンネル東口に車を置いて、スキー場からのツアーという羨ましいプラン。
 戸倉峠からの下りは、峠往復のスノーシュー軍団が歩いたようで、せっかくのトレースもズタズタ。前回のように気持ちよく滑ってというわけにはいかない。自分もスノーシューの時はよくスキーのトレースを踏んで歩くが、今日はちょっと恨めしい。ずるずる下って4時、国道着。まだまだ遊べそうな県境尾根だった。
戸倉トンネルから三ノ丸GPSログ
雪の壁がそびえる戸倉トンネル東口
今年三度目の戸倉峠
快適な登路になった谷
ブナの枝にはささやかな霧氷
宿り木の実は数少ない冬山の彩り
三ノ丸の大雪原が遠く見えてきた
さえぎるもののない大雪原