下山地温泉

 BSiの「温泉遺産」という番組をぼんやり見ていたら、この夏、白根三山を縦走した時にお世話になった奈良田温泉が出ていた。下山後汗を流した立ち寄り湯も紹介されていて、こんなに雰囲気のいい所だったっけというような映像。カメラのマジックと言いたくなったが、考えたら汗くさい体で気兼ねしながら飛び込んで、体中を清めるのに夢中で、仕上げに湯に浸かった時には、山の疲れと心地よさとでひたすら放心状態の自分には、めったに来れない山奥の湯の魅力もほとんど見えていないのかもしれないと思い直した。
 昔の登山家の本を読むと、下山後、何日か泊まって疲れを癒す山里の描写が、山に劣らず魅力的だ。そんな山と里をつなぐ山旅をしてみたいけれど、全国隅々への自動車道の浸透によって、今や登山は山と登山口の駐車場をつなぐだけのものになってしまった。せめて下山地の温泉で、遮二無二汗を流すだけでなく、物を食い、地元の人の話に耳を傾けて、もっとゆっくり過ごすべきかもしれないな。