有馬温泉

 時々近くを通っている有馬温泉だが、街中を歩いたのは昨日が20年ぶりぐらい。その頃はまだ一見さんお断りの宿だった御所坊に特別ルートwで泊まって、個人的には空前絶後に美味だった料理に舌鼓を打った。その味は有名温泉の老舗宿の実力として今も記憶に鮮やかだが、街自体は大旅館の林立の谷間で寂れてひっそりしていた。メインの小路を歩いても、あるのは炭酸煎餅と人形筆の店ぐらいで、そぞろ歩く人もほとんどいなかったのを記憶している。
 ところが昨日歩いた有馬の街には、若者の姿、特に若いカップルがやたらに多いのだった。そしてきれいになった2つの浴場とともに、ちょっと立ち寄ってみたくなるような土産物屋や飲食店が坂道に点在している。若者受けをねらった急作りな雰囲気もなくはないが、歩いて面白い、活気ある街になっているのは昔と大違いだった。
 御所坊も代替わりして、ずいぶんユニークな宿作りで評判になっているらしい。ただ、あの味がまた味わえるかといえば、もう望み薄だろうな。風呂上がりの黒ビールと特製ソーセージは確かに美味かったが、あれが有馬の味かといえば、ちょっと首をひねらざるを得ない。予想外の変貌を楽しみつつも、若者に媚びるあまり街のアイデンティティを失うようなことがなければいいのだがと思った下山後の有馬だった。