秋の花

 といっても、山の上にはもはや花はない。夏、あんなに咲き誇った高山植物は種を飛ばし実をつけ、早くも今年の店じまい。代わってこの時季、登山者を喜ばせるのは、登り下りの道を飾る深山の花。先日の白山では、別山からの下山に使った千振尾根にその出会いがあった。
 一つはアキギリ。といっても木ではない。園芸好きの人なら一目見て分かるはず。これはどう見てもサルビア。それも園芸種に劣らない大きな花を立派な花穂につけている。学名はSalvia glabrescens。名前だけは聞いていたけれど、こんなに素晴らしいサルビアが日本にも自生していたとは。もう一つはダイモンジソウ。これも山野草の愛好家にはおなじみの花。登山道の脇の水の滴る岩壁に、たくさんの白い大の字形の花を散らしていた。
 これらの花が終わったら、山はもう紅黄葉の季節。ブナやミズナラの黄金の黄葉が山を染め上げる。四季それぞれに山の楽しみは尽きない。