空木岳

 水曜は中央アルプスの秀峰に日帰り登山。週間予報ではまた土日が思わしくなく、山の禁断症状堪え難く、というか高山登山に残された時間を惜しむあまり、快晴予報のウィークデイに出掛ける。前夜、駒ヶ根から古城林道を進み、終点登山口で車中泊。6時半に車を離れて、池山尾根を登った。
 この長い尾根の最初の部分は、きれいな樹林のなかの穏やかな登り。道は広くよく整備され、さほど息を切らさずにゆっくりと高度を上げていく。まずは上々の滑り出し。そして少しのジグザグの急登の後、道はほぼ尾根芯に乗るが、しばらく行くと右に左に尾根を外してトラバースを始めるのは、稜線が痩せた岩稜だから。と言って、そのトラバース自体も急崖に張り付いて行くためなかなか大変。これが大地獄・小地獄と呼ばれる難所だが、今は梯子や架け橋、手すりが整備され、案ずるほどのことはない。慎重に小さな登り下りを繰り返して行くと、やがて尾根の様相も穏やかになり、右手には中央アルプス随一のランドマーク宝剣岳が、左手には木の間越しに遠く南アルプスの連稜がのぞけるようになる。
 左に空木平避難小屋への道を分けると急に前方の眺めが広がり、青空の下に駒石と空木岳山頂が姿を現わし、一気に気分が開放される。駒石への登りになると森林限界を越えて、這い松と花崗岩の白砂の気持ちのいい尾根が広がる。早くも雲に隠れがちだが、南アルプスのパノラマが雄大。谷をはさんだ中央アルプスの主稜線の連なりも視野いっぱいに展開する。全山花崗岩で出来た中央アルプスは、角のとれた白い大岩が所々に鎮座し、そのおおらかな造形が心を和ませる。駒石もその一つ。さらにもう一つ、きのこみたいな岩が群がるピークを越えると、駒峰ヒュッテは一投足。
 北の谷側に張り出したテラスを備えたこじんまりした小屋は、実にいい雰囲気。秋は土日だけ小屋番が入るようで今は無人だが、自由に利用できる。入ってみると中もきれいに整備されている。テーブルに無人販売の缶ビールやジュース、カップラーメンなどが置かれている。これは有り難いと財布を出すと、小銭がない、千円札さえない。全身がビールを欲しているのだが、泣く泣くあきらめて山頂へ向かった。
 広々した山頂の白砂に腰を下ろして昼食。今日は行動食のカロリーメイトと粉末ポカリしか持ってきてない。小銭があれば、ラーメン+ビールの最強の山食を楽しめたのだが。この山頂から南北に伸びる中アの主稜線は、歩いてきた広闊な尾根と違い険しい様相。細い尾根に尖った岩が林立している。駒石からの山容は拍子抜けするほど優しく、深田久弥百名山に選んだ雄峰の面影はあまり感じなかったけれど、険しい南北の稜線からここに至れば、またイメージが違うのだろう。
 下りは山頂の足元に広がるスプーンカットされたような空木平というカールのなかを通る道をとった。カールとしては小さめの地形だが、懐に入ってしまうとやはり氷河地形は大きく、どこを歩いているか分らなくなる。目印のない沢道を半信半疑で下って、草地に飛び出したらこじんまりした空木平避難小屋だった。ここも中をのぞくと清潔な床と土間で、この山は道も小屋も地元の人に大切にされていることがよく分かる。甘酸っぱいクロウスゴの実を探しながら稜線に戻り、水場ワンストップで池山尾根を下って、3時過ぎ車に戻った。
雰囲気のいい池山尾根の水場
南アルプスのパノラマが広がった
キノコ岩と山頂
駒峰ヒュッテのテラスと山頂
ヒュッテと宝剣岳の遠望
空木平分岐から
山頂からの中ア北部の峰々
南駒ヶ岳に向かう稜線
山頂からの駒峰ヒュッテと空木平カール
カールの底から山頂を振り返る