アパラチアン・トレイル

 昨日、NHK-hiでやっていたアメリカのアパラチアン・トレイルを取り上げた2時間の番組は面白かった。長大な山道を6カ月かけて歩く、スルー・ハイカーと呼ばれる人たちが背負った人生模様に焦点を当てた、かなりウェットな作りの番組だったが、道とそれを取り巻く自然の様子も興味深かった。
 アパラチア山脈は水と緑に恵まれた、高くても2000m程度というなだらかな山地で、そこを全長3500キロという道が通じ、1日行程毎に避難小屋とテントサイトがある。東京の高尾から大阪の箕面までの東海自然歩道が、総延長約1700キロというから、その倍以上。とんでもなく長いトレイルだ。
 日本でこれに似たものをあげるとすれば、紀伊半島大峰山脈を吉野から熊野まで通じる奥駈道だろうか。スケールは比べものにならないが、歴史ではこちらが遙かに先輩だ。かつて厳しい信仰の行を求める人たちが歩き、今も歩いている道には、一日行程毎に宿泊地があり、奥駈を歩き通すことは関西の登山者にとっても大きな目標になっている。
 大峰山脈は深く険しい山だから、奥駈道を半年間歩き続けるなどということは、とても不可能だろうが、アパラチア山脈は人里に近く、何度も自動車道を横断しつつ行くので、スルーハイカーたちは時々、町に出て食料を調達し、たらふく食い、垢を落とし、時には家族としばらく過ごしたりして英気を回復する。町にはそんなハイカーたちをもてなす宿も点在しているらしい。
 その辺りの、無理をせずに自然に融け込みつつ人生を考えることのできるような、人間的な余裕を確保した歩き方ができる環境が、うらやましいと思った。まあ、奥駈道と四国お遍路を足して二で割ったのが、アパラチアン・トレイルと言えば、当たらずとも遠からずだろうか。
□リンク
Appalachian Trail Conservancy アパラチアン・トレイルの自主管理団体のサイト。歩くための手引きがある。英語。
Appalachian Trail Conservancy YouTubeにあった上記団体によるトレイルと活動の紹介ビデオ。
Appalachian Trail Shelters グーグルマップで見るアパラチアン・トレイル。縮尺を小さくすれば、点々と連なるシェルター(避難小屋)のポイントが現われる。縮尺を上げて、SatteliteやTopo(地形図)に切り換えれば、トレイルの環境が分かる。
バックパッカー歳時記 作家でバックパッカーの加藤則芳さんのサイト。2005年4月から10月までアパラチアン・トレイルを歩いた記録がある。