大窪詩佛

 昼はまだ炎熱の名残が感じられても、庭や鉢土の乾き具合はもはや毎夕散水をする必要もない程度。夜には涼気と虫の声が網戸を侵し入り、寝床のひんやりとしたシーツが心地いい。虫の声といえば、都会生活の四季折々の風趣を好んで描いた詩佛の詩には、秋の虫の詩も多かった。江戸は鳥虫の身近な大都市だったのだろうな。「詩聖堂詩集三編」にある「虫を聞いて牛字を得たり」という題の、牛の字で終わる5つの詩の第一。
 浴後 涼を追う池水の頭
 候虫 相喚びて新秋を報ず
 なにに縁りてか一時に歇む
 知る是れ墻を隔てて牧牛を帰すを