御嶽山

 日曜は木曽御嶽に登った。前回の白山が不調だったので、重荷を担いだ縦走登山の前に、もう一度日帰り高山で調子を上げておこうという目論見。前夜、濁河温泉の登山口下の駐車場で車中泊。温泉までの林道は狭くて長くてカーブの連続の3拍子だが、20年ほど前にまだ地道の時に車の腹を擦りつつ走ったことを思えば上等。
 翌朝5時半過ぎから小坂口コースを登る。このコースは、樹林帯の歩きにくい部分は木道や木のステップが整備されていて、よく手入れされた道。森林限界を超えると、白山や北アルプスの眺望が目に飛び込んでくる。
 登り着いた五ノ池小屋のある飛騨頂上は頂上とはいえ、継子岳火山の肩のような場所。西側には四ノ池と三ノ池の火口を前景に、浅間山から八ヶ岳連峰、中央アルプス南アルプスの素晴らしい展望が広がる。この眺めは確かに「頂上」の名前に値する。
 最高峰をめざして摩利支天乗越を越え、賽の河原を抜けて、二ノ池火口の山腹にある二ノ池小屋の新館、ほとりにある本館を通過。新館では石組みを直していたご主人に親切にルートや見どころをアドバイスしてもらい、山頂でも買えるだろうが、思わず缶ビールを買ってしまう。通路の両側に畳敷きが奥まで続く広い小屋。青い水を湛えた二ノ池は美しい火口湖。大きな残雪も残っていて、二ノ池小屋本館ではその残雪で冷やしたビールを売っている。思わず「早まったか」とつぶやく。
 そのまま登り続けて30分ほどで最高峰の剣ヶ峰。二軒の小屋に守られた岩の舞台のような頂上は御嶽神社奥社の境内になっている。従って、この山頂では飲み食いをすることは許されない。ここでのご馳走は眺望。北アから八ヶ岳・南アの大パノラマと周囲の火山地形を目に収めてから、二ノ池小屋で教えてもらった地獄谷をのぞける場所まで足を伸ばそうと、王滝頂上へ下る
 王滝頂上への田ノ原口コースは、最も高くまで車で上がれるため、登山者や登拝の人も多い。下るとすぐに右手に噴気孔が見え、硫黄の臭気が漂う。登山道の脇には硫化水素の感知器も設置されている。賑わう小屋と神社を抜けて岩勝ちの道を王滝奥ノ院へ。ここは火山活動の爪痕が凄惨な地獄谷を真下に見下ろせるスリル満点の場所。居合わせた地元の人に聞くと、1979年の噴火以前はこの谷は険しいものの緑が濃く、さっき下った剣ヶ峰から王滝頂上へは今のようにザレた広い斜面ではなく、岩が切り立った危うい道だったそう。噴火で景色がすっかり変わってしまったと言っていた。
 もう一度最高峰の神社に登り返し、一ノ池火口の周回コースを行く。ちょうど風下で火山ガスの臭いがきつく、ちょっと危険を感じるほど。正午を過ぎて腹も減り、急いで二ノ池めがけてくだり、池のほとり残雪の横にたどり着いて、タオルを濡らして汗を拭き、ビールを雪に埋めて、中津川で買ってきた朴葉寿司の昼食。もちろんその後、冷えたビールに喉を鳴らしたことは言うまでもない。日本最高所の高山湖という二ノ池畔は、これまでで最も気持ちのいい山の休息場所の一つだった。
 その後はのんびり往路を摩利支天乗越の八百万の神に見送られて下山。今回踏んでない摩利支天山と継子岳の頂上は次回の楽しみに置いておくことにする。雄大で多彩な興趣に富んだ御嶽は、また登りたい山、何度もコースを変えて登りたい山になった。