初蝉

 確かに2・3日前の朝、1匹鳴くのを聞いたのだが、それ以来、絶えて蝉の声がしない。7月ももう後半なのに、毎年こんなに遅かったっけ。本州の一番早い夏蝉はニイニイゼミで、子どもの頃の夏休みの最初の朝は、あの甲高い声に取り巻かれて早く目を覚ましたものだ。気候変動でニイニイゼミが減ったというような話は聞かないが。
 伊東静雄に「七月二日・初蝉」という短い詩がある。ずいぶん早い蝉だ。その声のせいか、朝早く目が覚めると、横で母子も目覚めて同じように聞いている。「軒端のそらが/ひやひやと見えた/何かかれらに/言つてやりたかつたが/だまつてゐた」という詩。明け方に羽化したばかりの初めての蝉の声は、やはりそんな風にしんとした気分で迎えるほかないだろうな。よく感じるの分かる佳品。