落花

 気温が低めでよくもった今年の花も、週末以降の雨がちな日和でようやく散るときを迎えそう。そこで、『竹外二十八字詩』から有名な落花の詩。
 ○芳野
 古陵の松柏 天飈に吼ゆ
 山寺 春を尋ねれば 春寂寥
 眉雪の老僧 時に箒をとどめ
 落花深き処 南朝を説く
 古陵は吉野で没した後醍醐天皇陵のこと。天飈は空吹く強い風。三・四句の名調子はいかにも師の頼山陽譲りだ。それだけに当時は世評高く、梁川星巌・河野鉄兜の詩とともに、吉野三絶としてもてはやされたという。けれどもう、このヒロイックな懐古は我々には縁遠い。もっと細やかな観察に基づいた詩が読みたいところ。たとえば、次のようなのどかな水郷の春をうたった田園詩の方がずっと好ましい。
 ○鳥飼村を過ぐ
 野水 村を穿って小舠を通ず
 落花 店に満ちて香醪を売る
 東風 吹き老いて漸く力無く
 箇箇の紙鳶 颺ること高からず