花冷え

 とはよく言ったもので、桜が咲くこの時期になって、大陸からそっと降りてきた冬の寒気のしっぽが、野や町をもうすっかり覆ったはずの春のスカートの下に忍び入って、花見の人たちを震えさせる、ということがある。といっても、陽光はもう十分に春のものだから、少し厚めの服を着て日溜まりにうずくまり、冷たい空気の流れる空に、桜の花が少し身もだえしながら満開を迎えているのを眺めるのも、陽気のいい日の野遊び・町歩きに劣らず春の気分のするものだ。もう吹雪やみぞれに襲われることがないとわかっているから、人は冬の名残を少し懐かしい気分で見送って、すぐに帰ってくる本格的な春に備えるのだ。ほら、まだ緑浅い庭の隈々には、洋ズイセン・スノーフレークムスカリ、いち早く球根からスタートダッシュをかけた花たちが、とりどりに揺れている。
Snowflake