大窪詩佛
○二月半
雨雪今年少なし
陽和節に先んじて回る
春纔かに二月半
花已に十分開く
新酒樽に満ちて貯ふ
故人簡を投じて来る
明朝もし出でずんば
香蕊恐らくは埃に成らん
『詩聖堂詩集』二編所収。この詩を読むと、現在よりも気温が低く小氷期だったとされる江戸時代にも、今年のような暖冬の年があったことがわかる。旧暦2月半ばといえば、新暦で3月のどのあたりか。正しい太陽年から1年で約11日もずれがあったという旧暦なので、この詩が作られた年が分らなければ新暦への換算はできないのだが、まあ3月半ば? はや満開のお江戸の桜に、「早く出かけないと散っちゃうぞ」と焦り気味の風流連から声がかかる。にわかに沸き立つ春の気分を、楽しげに描きとめた詩だ。