英国の庭・日本の庭

 昨夜録画しておいた、英国のコッツウォルズ地方の庭を巡る暮らしを紹介したBSの番組を見るに、うらやましさ限りなし。確かにかの国は、園芸家の天国と呼ぶべき祝福された土地だ。
 庭と住環境、町並みに対する感覚的な洗練、文化的な蓄積はもちろん第一にあげるべきかの国の美点だろうが、それはかつて日本にもあったものだ。だから我々もいつかはふたたび、それを取り戻すことができるかもしれない。しかし、温和な園芸向きの気候は、今も昔も英国にあって日本にはないものだ。
 想像するに、かの国は日本の5月の気候が春夏秋と続く土地なのだろう。日本も5月の庭の美しさは、きっと英国に勝るとも劣らないはずだ。しかしその後、長い雨期と高温多湿の夏がやってくる。薔薇に黒点病が蔓延し、5月に美しく咲き誇った宿根草が斃死する。あまつさえ、幾度か襲来する熱帯生まれのストーム。かくして、高緯度地方を除く多くの庭が台無しになる。
 秋は再生の季節であり、日本の庭の第二の盛期だが、それは謳歌するには余りに短い。すぐに花の季節は終わって、庭は忘れられ、人々の関心は里と山の錦繍に移る。
 このような風土でイングリッシュガーデンをナイーブに模倣することの不毛は言うまでもないだろう。それは成果のない苗への多くの投資と、環境を汚染する薬剤の多用につながる。イングリッシュガーデンブームを真に享受しているのは、園芸業界だけかもしれない。その一方で、伝統的な日本庭園に代わるこの国の新しい園芸のあり方、庭のスタイルはまだ確立されないままだ。