素白随筆

 買ったまま読んでない本が、小さな本箱いっぱい溜まっている。最近めっきり読書量が落ちているのに、何かの折に心に留まった本はとりあえず買うという習慣は変わってないから、購・読のバランスはずっと不均衡で、その結果がこの積ん読状態である。といっても、小説を手当たり次第に読む習慣はとっくになくなって、読書の守備範囲はごく狭く、流行とは無縁(気の迷いで『1Q84』を買ってしまって後悔はしたが)だから、買う方も大したことはない。となると、読む方の衰弱ぶり、推して知るべしだろう。
 最近買った本だが、これは積まずに読んでいる。車内誌などを出版しているJR東海の子会社が始めたウェッジ文庫というのがあって、ニッチ狙いの編集方針で忘れられた随筆集などを収録している。『東海道品川宿岩本素白随筆集』はその一冊で、読んでみたら良かったので、続いて平凡社ライブラリーに入っている『素白随筆集―山居俗情・素白集』も読んでいる。
 岩本素白は国文学者で、大学で中世・近世の随筆を講ずる傍ら、自らも友人の窪田空穂の歌誌などに端正な筆をふるった文人学者。生前に出版された2冊の随筆集と没後に編まれた全集にはもはや気軽に手が出せない値がついていたが、2001年に出た池内紀編の選集以来、再評価の機運高まって、上の2冊と平凡社ライブラリーのもう1冊『素白随筆遺珠・学芸文集』で、その温雅な文章がほぼカバーされているのは嬉しい限りだ。
 正月はこの3冊に加えて、同じウェッジ文庫で目を引いた浅見淵随筆集、岩波文庫の復刊、薄田泣菫『艸木虫魚』で随筆三昧。そういえば『茶話』も長く積んだままだったな。