歌う辻まこと

 「山の本」に送っている写文が早くもパターン化し硬直化してきたので、何かしなやかにするヒントはないものかと、最近辻まことの文章を拾い読みしていたところに、たまたまネットでこんなページに出会った。世の中にはまだまだ知らずにいる面白いサイトがあるものだ。といっても、当方が知らないだけで、驚くべき閲覧数からすると大変メジャーなブログのようなのだが。
 辻まことがギターを弾きつつ歌っている。聴衆を前に、あるいはスキーロッジの夜に。これらの写真を見ると、辻まことのあの文章の魅力を生みだしたものが、生き方自体の豊かさだったことがよく分かる。彼は山に登り、釣りをし、狩りをし、スキーをやり、音楽を楽しみ、もちろん洒落た絵と文章を書いた。そして山の民から都会のインテリまで多くの人と交わった。稀代の趣味人、遊びの達人といっていいが、仕事があってその息抜きに趣味があったわけではなく、趣味的な行為と仕事的な行為との間にまったく隔てのなかった人だったようだ。だから、主な収入源になった絵と文章には遊びの自由さと楽しさがあふれている。
 ああ、結局そうなのだ。しなやかな文章はしなやかな生き方からしか生まれないし、豊かな逸話は豊富な人生経験からしかこぼれ出ない。無い袖は振れない。もちろん文章には膨軟に世界と人生を包み込むものだけでなく、純粋透明にひとり結晶化するものもあり得るのだろうが、どちらにしても自分には遙かに遠い境地だ。