珍客


 2階にいたら下で犬が激しく鳴く。野良猫や見知らぬ人が現れた時の威嚇的な鳴き方だ。気になって下りて外をのぞいてみるが、格別のことはない。犬を叱って上に上がり、またモニターに向っていると、今度は窓の外の栗の木の枝が激しく揺れだした。見ると、茶色いものが全身を激しく上下させて枝葉を揺さぶっているではないか。
 一瞬目を疑ったが、そやつはどう見たって猿。まさかと思ったが、幻を見るほどまだ現実離れしてはいない。あわててカメラをつかんで戻ると、枝の奥の写しづらいところに引っ込んでしまっている。望遠ズームで窺っていると、また窓近の枝に出てきて激しく揺すぶり、こちらを威嚇的に睨んだ。まだ若い狷介そうな顔をした日本猿だ。何枚か写真を撮っているうちに、身を翻して栗の木を離れ、枝を揺らしながら竹林の方へ去って行った。
 確かにこの辺りは田舎で、裏山には狸がいるし、雉が出たこともある。春には鶯が雀並みに鳴きまくっている。けど、猿が棲むほどの深山ではない。離れ猿? 逃亡猿? そのうちどっかで悪さをして、大捕り物がニュースになるのではないだろうか。
 びっくりしたなあ、もう。