富士山遠近

 まずは富士山に登った。といっても車で。富士山中腹に至る自動車道は、南側の富士山スカイライン、東側のふじあざみ道路、北側の富士スバルラインと3本あるが須走からのふじあざみ道路を選択。自衛隊演習地を抜ける松並木の直線コースからジグザグの登山コースに入ると五合目は意外に近い。道の両側の林床にはテンニンソウの群落が続き、みごとに白い花を咲かせている。
 五合目の駐車場に入ると、中腹にかかる雲のなかに入ったようで、残念ながら上も下も展望はなし。茶屋で休んでいると、袋や籠にたくさんキノコを入れたハイカーが通る。茶屋のベンチに人だかりができているので見に行くと、キノコを取ってきた人たちが、詳しい人に選別をしてもらっているよう。色とりどり、多種多様なキノコが手早く分けられていく。キノコ指導員の資格をもった山荘の主人やボランティアの人がこの時期は大活躍するのだそうだ。富士山は意外にキノコの山という顔ももっていた。なんとマツタケだって取れるらしい。
ふじあざみ道路のテンニンソウ群落(拡大)
須走口五合目はガスの中
取ってきたキノコを選別中
 翌日は御坂峠から甲府盆地に抜けたが、新しい御坂トンネルを使わずに旧道を越えた。古い隧道の手前には天下茶屋があって、太宰治の『富嶽百景』で知られるところ。二階には太宰が使った机や火鉢が置かれた部屋や展示があり、ちょっとした資料館になっている。ただし、建物は建て変えられていて、井伏鱒二や太宰が滞在して執筆を行った当時の様子はパネルで知るのみ。
 この峠を超えて甲府盆地に下ると、御坂山地が邪魔して富士はほとんど見えなくなる。逆に言うと、甲府から越えてきた人はここで遮るもののない富士を初めて目にする。だから、太宰は「風呂屋のペンキ画」と面はゆがったけれど、ここからの富士はやっぱり旧隧道の額字にある通り「天下第一」かもしれない。そう思いながら、富士山に別れを告げた。
御坂峠天下茶屋からの富士
再現された太宰の部屋
太宰が滞在した頃の天下茶屋