曝書


 北島金メダルの興奮冷めやらぬなか、茣蓙をデッキに敷いて和本の虫干し。去夏、菓子箱に仕舞っていた本がみごとに虫食いになっていたのにショックを受けてから、和本はずっとその辺りに放り出した状態にしていたのだが、今年は新たな被害はない。中途半端な箱入り状態よりはまだましだったようだ。ほんとは倹飩箱のような桐の本箱に入れればいいのだろうが、それほどの稀覯書もないので、気軽に手に取ってペラペラ繰れるような扱いでいいかと思っている。
 ところで、和本に穴をあける虫を紙魚だと思っていたのだが、そうではないらしい。ウィキペディアには「人家に生息するものは、障子や本(和紙)の表面を舐めるように食害する。ただし、書物の中を縦横に食い荒らす細長いトンネルは、シミとよく誤解されるが、シバンムシによる食害である」とある。確かに障子の糊のついた桟の部分や和本の表紙が舐められているのをよく見るが、あれが紙魚の仕業で、もっと重大な本の穴は別の虫が犯人のようだ。
 真犯人のシバンムシについてもウィキペディアの記述が詳しい。死番虫という嫌な名の起こりについても書かれている。カブトムシの雌をごく小さくしたような甲虫で、その幼虫がいろいろなものを食害する。食性によってたくさんの種類があって、その一種がずばりフルホンシバンムシ。橋口侯之介著『和本入門』には、この虫への対処法が紹介されていて、ラップで包んで電子レンジでチン、なんて方法も推奨されている。ただし50秒が限度で、それ以上だと紙が燃える危険があるそうだ。ラップにはたくさん露がつくというから、和本が含む水分は意外に多いのだ。だから幼虫もその中で生きられる。しかしこの虫、中国人が紙を発明し、印刷を発明する前は、何を食ってたのかね。