それぞれの山スキー

 火曜の氷ノ山でも前回に続いて味のあるベテランとの出会いがあった。帰途、除雪済みの林道を歩いていると、もう2時だというのに、バイクでやってきてこれから登ろうとしている中年スキーヤーに出くわしたのだ。聞いてみると、横行谷を真っ直ぐ登って1時間半で頂上へ行ってしまうのだという。二ノ丸の北のコルに出るらしい。険しい個所はないのかと聞くと、ないという。見ると、子ども用みたいな細くて短い板にテレマーク靴という装備。これでさっさと登ってしまうらしい。板を持たせてもらうと信じられない軽さだ。靴もガチガチのプラ靴ではなく、楽そうな革靴。どちらも腕に覚えのある人にしか使いこなせない道具だ。
 そういえばと思い出したのが、ちょうど10年前に同じ横行林道で出会った、やはり軽いクロカン板を履いた人。同じように谷を真っ直ぐ登ってさっと下りてきたと言って、輪カンジキでボソボソ歩いていた当方を追い越して行ったのだが、その後、車の片づけ中の所にまた行き会って、少し山スキーのことを尋ねたのだった。ゲレンデスキーさえ未経験のところにスキー登山などまったく雲の上の話だったけれど、ゆるんでスボスボ沈む雪に苦労している横をさっそうと滑っていった姿が鮮烈で、それが「いつかは山スキー」と憧れを抱くきっかけになった。
 その後も雪山登山のスキー化は遅々として進まなかったけれど、ゲレンデ我流練習から始めて3年前に遂に山スキーセットを購入して、ようやく曲がりなりにもスキーで氷ノ山をウロウロするまでになった。吸収力の衰えた中年のこととて、技術の不足を補ってくれるガチガチのアルパインスタイルが精一杯で、彼らのように軽い板・軟らかい靴を高度な技術で乗りこなすという境地にはもはや至りようもないが、ともかくも氷ノ山の雪原をスキーで踏み渡り、長い林道を板に乗って下っている自分がいることがうれしいし、ちょっと誇らしい。件のベテランスキーヤー氏を見送ってから林道を歩きながら、そんな思いも湧いてきたのだった。