薬師寺

 日本の仏教彫刻の白眉、薬師三尊の光背が取り外されているというニュースが年末にあったので、めったにない機会と初詣がてら西ノ京に出かける。第二阪奈道路ができるまでは、奈良中心部へは生駒山を越えて行ったものだが、今や阪神高速から阪奈トンネルを抜けて容易に奈良盆地に達することができる。
 唐招提寺の駐車場に駐めて、金堂が改修工事中で巨大な工場みたいな建物で覆われている境内を一回りしてから、両寺を結ぶ懐かしい道を歩いて薬師寺へ。長らく見ない間に、たくさんの建物が再建されてずいぶん様子が違っている。金堂と西塔は知っていたが、講堂が新しくなり、回廊まで半分ほど復元されているのには驚いた。こうなってしまうと、松の多い質朴な境内に静かに東塔がたたずんでいた様が懐かしい。この繊細な塔が周囲と調和するのは、たぶんずっと先のことになるんだろうな。
 めあての金堂の薬師三尊は確かに背後にあった金色の光背がなく、白い漆喰壁と朱色の柱をバックにしている。少し宗教色が薄れて、彫刻としての魅力が一層分かりやすくなった感じ。仕切りの壁があって真後ろから見ることは無理だが、向かって左側の月光菩薩像は斜め後ろのいい角度から見ることができる。さすがに背面の造作もまったく破綻がない。背中から腰にかけての肉感の表現が実に魅力的。前面以上に自然な人体表現が実現されているのが驚きだった。薬師寺のもう一つの優れた彫刻。東院堂の聖観音立像の端正で瑞々しい姿を見てから、境内を後にした。正月早々、眼福の一日。
薬師寺東塔
月光菩薩