伊那谷


 先日の登山で訪れた伊那谷は、わが憧れの土地のひとつだ。こんなにスケールの大きな地形は日本でも少ないだろう。西側には一気に3000m近くまでせり上がる中央アルプスが連なり、東には伊那山地を前景に、一直線に伸びる中央構造線の谷をはさんで、南アルプスの大山塊が地平を限る。その間に広がる幅数キロ、長さ60数キロの大きな谷には、中央アルプスの渓谷から押し出された扇状地が連なり、田切地形と呼ばれる幾筋もの深い谷が横切り、天竜川が形作った河岸段丘が幾段にも広大なステージを整えている。この谷ではいつも木曽・赤石の2つの大山脈を望むことができるし、その足元に広がる長大な谷の風景を見晴るかすことができる。
 こんな土地で暮らしたら、毎日どんな気分で朝を迎え、どんな風に夕景を望むことができるだろうか。そして、どんな悠々たる詩想が心に宿るだろうか。