イングマール・ベルイマン

 BS1で録画しておいた「ベルイマンの監督術」というドキュメンタリーを見る。85歳のときに最後の映画として撮った「サラバンド」のメイキング。アメリカ娯楽映画のシチュエーションの生産工場みたいな現場とは対照的に、場面を構成する人の心と身体の動きを、言葉と動作と時に抱擁で、きめ細かに造形していく様子が面白かった。小津なんかの現場もこんな風だったんだろうな。ベルイマンは小道具の一つ一つ、グラスの形にもこだわるんだとセット係が言っていたが、小津も小道具には完璧を求めたようだし。
 タイトルにもなっているバッハの無伴奏チェロのサラバンドを弾くシーンを撮った後、今のでよかったのかと問う女優に、ベルイマンが言った言葉。
 「もしきみが監督で決定権を持っていたら、きみはこう考えるかもしれない。機材はそろっているしもう1回撮ればいいとね。だが、さっきのは良かったし、訴えかけるものがあった。わかるかい? 確かに技術的な問題はあった。だが私は気にしない。完璧にできるまで同じシーンを撮り続けるのは、感情を無駄遣いするようなものだと思うからね。でも、きみがやりたいと言うのなら撮り直すよ」
 完璧主義者でありながら、完璧を超えるものを知っていた、ということなんだろうなあ。