夏山プラン

 夏が近づいてくると、夏の山の計画が頭の一角を占めるようになる。もちろん夏山といえば、日本アルプスだ。加えるに、白山や乗鞍・御嶽・八ヶ岳などの2500mを超える山々だ。厳しい高山も安定した夏空の下では、雄大な風景と清澄な自然を存分に楽しめる理想的な登山フィールドになる。もし真夏に炎熱と害虫に悩みつつ低山に登っている人がいたら、失礼だがボタンの掛け違えではないかと言いたい。季節にはそれにふさわしいフィールドがある。夏はふだん近づき難い高山が、だれにも優しくなる季節だ。もちろん道は長丁場で相応の体力は必要だが、美しい風景と自然を眼前にする喜びが疲れを忘れさせてくれるだろう。夏の高山は必ずしもエキスパートの領域ではない。夏には夏に最も美しい山々に登るべきなのだ。
 ごたくが長くなった。今年の夏山の計画の話。もちろん登りたい山はたくさんある。登っていない山もまだ多い。けれど、自分の山登りのスタイルを勘案すると、行けるルートは自ずと限られてくる。登山口に車で入り、再びその車に戻る。けれど単純な往復ルートは採りたくない。宿泊は山小屋ではなくテントで。荷が重いので剣呑な岩攀じりコースよりも安穏な稜線漫歩コースを中心に。そんな要件を胸に登山地図をためつすがめつして納得できるルートを見つけ出す。この机上登山の時間がまた楽しいのだ。
 この夏のメインディッシュはもう決まっている。実は昨年計画して、梅雨の豪雨で道が通行止めになり断念したルートだ。車で山梨県早川町奈良田温泉まで入り、バスに乗り換えて県道南アルプス公園線で登山基地・広河原へ。大雪渓が遅くまで残る大樺沢を登り、八本歯ノコルを経て北岳山荘に幕営。もちろん北岳往復も。翌日は間ノ岳農鳥岳を踏み、大門沢小屋を経て、奈良田の2キロ手前で県道に下降するという、白根三山回遊プラン。2日目が10時間半の長丁場になるのがツライところだが、場合によっては農鳥小屋でもう一泊してゆっくりするのもよし。スケール大きな南アルプスの雄峰を満喫できる2or3日間になるだろう。ただし、このプランの成否は今年の6・7月の天候にかかっている。奈良田〜広河原間の道は、ひとたび豪雨があればたちまち寸断されること必至の頼りない生命線なのだ。
夏雲、湧く