展望荘


 突然だが、オーバールックホテルを見つけた。スティーブン・キング原作の「シャイニング」を映画化したキューブリックが、ロケ地に選んだホテル。といえば、「ああ、あれ」と思う人も多いだろう。といっても、使われたのは遠景のみで、建物のアップや内部はすべてセット撮影だったらしいのだが。ただ、その遠景、オープニングで「幻想交響曲」のおどろおどろしいワルプルギスの夜のメロディが響くなか、延々山道を車が走り、ついにたどり着いたホテルの遠景の、荒涼とした山肌を背景にした、悲鳴のような鹿の声をともなったイメージは、なんとも印象的だったものだ。その遠景のみで観客を非日常の世界に一気に引き込んでしまったあのホテルはどこにあるんだろうと、ずっと心にかかっていたのだが、調べてみれば答えを見つけるのにさほど時間はかからなかった。もちろん史上最強の百科事典、インターネットを使って。
 なんのことはない、WikipediaにはちゃんとOverlook Hotelの項目があった。そこでオレゴンのTimberline Lodgeがキューブリックのロケ地であることを知ったら、次はGoogle Mapsの出番。検索で幾つかのポイントがピックアップされてくるので、オレゴンを選んで見ていくと、行き着いたのがこの建物だった。いやー、さすがにすごいところにある。3372mの火山フッド山の中腹。Google Mapsの縮尺を小さくすると、緑と土色の境、まさに森林限界にこの建物が建っていることが分かる。WikipediaでTimberline Lodgeを検索すると、この建物が大恐慌の時代に失業対策として建てられたなどと書かれているようで、非常に歴史的な建物ではあるが、「シャイニング」の有産階級が集まったリゾートというイメージとはずいぶん違う。今は年中スキーが楽しめる拠点として若者に親しまれているようで、YouTubeで検索すると、ロッジ周辺でスノースポーツに興じる動画やログハウス調の内部で若者たちがにぎやかに飯を食っている動画などが見られる。う〜ん、ますますあの傑作ホラー映画のイメージは遠い。やっぱりオーバールックホテルは、キューブリックの映像のなかだけに置いておくべきだったかな。