ターシャ・テューダー、『八月の鯨』

 録画しておいたBSの再放送、ターシャ・テューダーというアメリカの老絵本作家をめぐる番組を見る。きれいな庭と居心地よさそうな家、そして純朴そうな子や孫、長年慈しみ、手塩にかけてきたものに囲まれて過ごす老女の姿には、ていねいに積み重ねてきた生き方の最後に人生が与えてくれるものの豊かさが感じられる。すぐに壊れるもの、次々に新しくして行かなければならないものを、ひたすら消費していく生き方ではなく、長く馴染めるもの、ゆっくりと熟成していくものとともに、じっくり深まっていく生き方を、我々も求めるべき時かもしれない。大量生産・消費社会のメカニズムが簡単にそれを許してくれそうにはないが。
 番組を見ながら思い出したのが『八月の鯨』というアメリカ映画。老人しか出てこない静かな、大好きな映画だ。老姉妹が暮らす海辺の家にも、年月の艶を帯びた調度とともに人生の思い出が染みついていて、それがこの映画の3人目の主人公となっている。家を値踏みにきた不動産屋を追い返した後、リリアン・ギッシュが満足そうに部屋を見回す表情には、家というものの人にとっての、特に老年にとっての意味がみごとに表現されている。