ホワイトカラー・エグゼンプション

 管理職ではない会社員のうち、一定年収以上の者から残業代をなくすべし、という答申が厚生労働省の諮問機関から出されたという。これをアメリカに習って「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼んでいるようだが、これでは何のことだか分らない。ウィキペディアの「ホワイトカラー労働時間規制適用免除制度」という訳が最も正確に内容を伝えているのだろう。それにしても経団連の要請には、厚労省の腰の軽いことよ。どららを向いて労働行政をやっているか、見え見えじゃないか。
 冷泉彰彦メールマガジン「from 911/USAレポート」の第278回「アメリカの制度をマネするな」に、この問題がくわしく触れられている。そこにはアメリカの「ホワイトカラー・エグゼンプション」には厳密な適用要件があり、まったく労働環境の違う日本に形だけ移植することの危険性が説かれている。思いっきり要約すると、アメリカでは自分自身で自由に時間を切り盛りして働く人だけが、この制度の対象者であり、日本のホワイトカラーにはほとんどそんな人はいない。年収基準だけでこの制度を適用すること、すなわち

「実質的に裁量権のない人間の時間外手当を奪うというのは、その人間の尊厳を奪う、つまり他人の命令に翻弄されながら何の見返りもない、惨めな存在に貶めること」
であり、
「本当の裁量性のない、したがって自分で時間をコントロールできないポジションにある人々には、時間外手当という金銭でそのプライドを埋める、また会社側には歯止めをかける、そんな形で人間の尊厳を認めてゆくべき」
だと冷泉氏は訴える。
 この問題を正確に判断する能力は自分にはないが、「リストラブーム」以来の日本の企業家たちの「人間の尊厳」を無視して、最低限の企業人としてのモラルもかなぐり捨てて、なりふり構わず人件費抑制に走る姿を見てきた目には、この制度導入の目論見自体も、その延長線上にあるものとしてしか考えられないのだが、どうだろうか。