眼鏡

 眼鏡を遠近両用に変えた。名前はもっともらしいが、要するに半分老眼鏡だ。裸眼で視力表の一番小さい欠け丸までくっきり見えた時代は遙かに遠く、夜、車に乗るときだけ眼鏡の世話になった時代も記憶の向こう。いつしか眼鏡は常用のものとなり、事ここにいたっては、ついにおのれの老化の事実を受け入れ、それへの最初の対応に着手せざるを得なくなったわけだ。山に登る体力にまだ衰えは感じないが、この次に来る老化の実感といえば、やはりその辺りだろうか。「テントを担いで登れなくなったら、山男を辞める時」そう宣言している人もいるようだが。
 視野によって度の変わるこの新しい眼鏡に慣れるのはちょっと時間がかかりそうだ。しかし、実はけっこう気に入っていたりするのは、フレームが川崎和男だから。ネットで見つけたMP670は、ほれぼれするような繊細な眼鏡だ。しかもすぐれた道具に特有のしなやかな強靱さを備えている。繊細ならざる顔面には分不相応な逸品だが、四六時中装着しているものだから、不満のないものを使うことにした。
Kazuo Kawasaki MP670