類人猿の絶滅

 エボラ出血熱の蔓延で、アフリカのゴリラに絶滅の危機が迫っているという記事が出ている。最近5年間で5000頭以上が死んだという。保護区によっては90%を超えるゴリラが消えたということだ。野生のゴリラ・チンパンジーにエボラが広がっているというニュースは以前から聞いていたが、これほど深刻な状況だとは知らなかった。
 記事は「ゴリラの次は人類」と心配する役人のコメントで締めくくられているが、そんな問題だろうか。人とオラウータン・ゴリラ・チンパンジーなどの類人猿が、これまで考えられていた以上に近い関係にあることが、最近の研究でわかっている。人とゴリラが共通の祖先から分かれたのはわずか650万年前のことだという。チンパンジーはもっと近い。絶滅に瀕しているのは、我々の進化上の兄弟なのだ。
 ヒト科はその進化の過程で、猿人・原人・旧人などと呼ばれる多くの亜種を生み、絶滅させてきたが、類人猿たちは進化の狂想曲から早く離れ、自然のなかで独自の穏やかな生活様式を選び取ることで生き延びてきた。エボラウィルスを自然宿主から引き出し、危険な病原体に変えたのは、人間による環境破壊だと言われている。ゴリラが絶滅するとしたら、その引き金を引いたのは明らかに人間なのだ。遠くない将来、人は自らの手で進化上の兄弟を絶滅に追いやり、ヒト科の系統樹に一人残されて、その孤独に震えることになるのだろうか。