荒島岳はブナの山

 土曜はK氏と荒島岳越前大野の東に聳えるさほど大きくもない、でも姿のいい独立峰だが、百名山の称号を得たことによって微妙なことになっていると感じた。勝原スキー場から出発する登山コースは稜線までの間、整備が入りすぎてかなり遊歩道化しているし、その先の山頂までの急傾斜の道は、よく歩かれることによって滑りやすい粘土質の地肌が剥き出しになり、下りの危険性はかなりのもの。百名山ハントの中高年軍団の方々は大いに苦労することだろう。要するにオーバーユースなのだ。
 郷土の山ということで、特別待遇で(と言えば地元の人たちに怒られるでしょうが)百名山入りした荒島岳だが、こんなことになるとわかっていたら、深田さんは自分の心のなかの名山としてそっとしておいたはず。もちろん執筆当時、自分の選んだ山々に完登することがリタイヤ後の人生の目標になる、などという現象が全国で巻き起こるなんて、想像だにしなかったはずだから、著者に責任はない。問題はよく言われていることだけど、日本人の主体性の無さ。山の選択だけでなく、山登りさえも回りに吊られて、ブームに乗って始めてしまうという性向かな。あんただって登ってるじゃないかと言われたら、一言もないのですが。
 帰り道、スキー場への分岐から少し足を伸ばして小荒島岳という前衛峰を往復してみた。すると道は、歩く人が少ないのだろう、いい雰囲気の小笹と落ち葉の道で、両側には素直に伸びた白い幹が立ち並ぶきれいな若ブナの林が続く。これが本当の荒島岳、かどうかは知らないが、その日初めて心からいいなと思えた風景だった。
 小荒島岳の若ブナの林