琵琶湖異変

 先日NHKローカルで再放送していた「守れびわ湖の呼吸云々」という番組によると、温暖化があの湖にも深刻な影響を与え始めているらしい。冬の水温の低下が弱まり、雪解け水の流れ込みも減って、冷たい水が沈み込むことから起こる湖水全体の対流が衰えているという。その結果、ちょうど以前に紹介した「海洋無酸素事変」のミニチュア版のような事態が、琵琶湖底では起こりかけているらしい。
 つまり、これまでは、夏の間に沈んだ有機物が湖底で分解して酸素を消費しても、冬に冷やされた表面の水や雪解け水が湖底に沈むことで新鮮な酸素が供給されていたのが、それが弱まることで深部が酸素不足に陥っているというのだ。湖底の生き物が次々に死に、採取した湖底の泥からは嫌気性のバクテリアが作る硫化水素の臭気がするという。恐竜時代の「海洋無酸素事変」では硫化水素の汚染はついに海全体に及び、多くの海洋生物が死滅したのだが、まさかそんな事態が琵琶湖で起こるのだろうか。
 救いなのは、海と違い琵琶湖のスケールが人為がまったく及ばないほど大きくはないということ。近畿の水がめとして利用されていることを考えても、「琵琶湖無酸素事変」は何としても防がなければならないだろう。ただ、温暖化にしても人工的な対策にしても、人の影響による環境の紊乱と操作に、琵琶湖の生態系が無傷でいられるとはとても思えない。
 今はまだ湖国近江を訪れると、さまざまな湖魚を利用した豊かな郷土食に出会える。鮒鮨も材料のにごろぶなが外来魚の影響で減り、ずいぶん高価なものになってしまったけれど、無理をすれば味わえなくはない。琵琶湖は、ありきたりなダム湖のようにボートを浮かべたり、釣りをするだけの場所ではなく、食文化さえも担っている淡水の豊穣の海なのだ。そのことのかけがえのなさを我々近畿の人間はもっと意識する必要があるかもしれないな。